117号HP用
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13写真はすべて2024年5月3日に撮影しました。鑑賞しにくる人びとの関わりをうんだのだろう。*  *  *上大幡の八房の梅を見に行くと、天然記念物という肩書きを持ちながらも、安田家の暮らしにとけ込んでいる2本の木のすがたがあった。梅とナシの2本の天然記念物は、暮らしのそばにあることで、育てている人の思い出の一部として残り続けている。そして、新たな人びととのつながりがうまれている。日常生活のなかには、桜や桃のように長いあいだ大切に親しまれ、花を咲かせている植物がたくさんある。天然記念物だけでなく、身近に咲き、生活を彩る植物には、育て続けてきた人の想いが込められているはずだ。安田家の人びとの気持ちを受け継ぐ梅とナシの木は、これから先も私の目に鮮やかな思い出として映り続けるだろう。思い出をつなぐ安田さんのお父さんは、八房の梅で梅酒をつくっていたという。天然記念物の梅でつくられたお酒は、どんなに特別なのだろう。不思議な味がするに違いない。想像を膨らませていると、安田さんは「食べるのには向いていないんだ。8つに実の栄養が分かれてしまうから、最後に残った実はあまり美味しくないんだよ」と教えてくれた。実がたくさんなると聞いたときから、八房の梅は食用だと思っていた。どうやら、観賞用らしい。満開に梅の花が咲いている時期にも、安田さんのお宅にうかがってみたい。思い出話を聞いていると、これまで梅やナシとともに生活をしてきた安田家の人びとのようすが浮かんでくる。天然記念物に認定されることによって受け継がれるのは、木だけではない。無意識のうちに、木と共に生きてきた人びとの思い出も残されていくのだろう。育て続ける理由安田さんは「梅もナシも幹はしっかりしているけど、全体が傷んできているんだ。これから先がちょっと心配だね」と不安そうに話す。天然記念物に指定されているので、木の維持には市や県の助けを借りることができる。しかし、樹齢が何百年もある木を、花が咲くように育て続けることは簡単ではない。管理が大変でも、木を大事にし続けている理由をたずねる。すると、「自分が生まれたこの家で代々受け継がれているからだね。あと、天然記念物に認定されているから見にきてくれる人も多いんだ」と嬉しそうに答えてくれた。八房の梅とナシの木が受け継がれ、育てられ続けてきたのは、安田家の人びとに、この2本の木を大切にしたい気持ちがあったからだろう。そして、その想いが2本の木を大木に育て、安田家の人びとと、梅とナシを根本菜桜(比較文化学科2年)=文・写真八房の梅の実。8つの実のうち成熟できる実は2つか1つだけだ。他の実は、成熟する前に地面に落ちてしまう

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