117号HP用
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20no.117 Jul. 2024モミジの横を通り抜けて数メートル歩くと、ビニール紐で囲まれている一角があった。そこに、長さが20センチほどの葉が2枚地面から生えている。そのあいだから1本の茎が伸びていて、先端にそら豆のような丸い、ぷっくりした何かがついている。おそるおそる触ってみると、すべすべしていた。菊池さんによると、これはカタクリという珍しい植物なのだそうだ。本学の学校教育学科の教員である、別べっく宮有ゆきこ紀子先生が植えられたのだという。5月1日、雨の降っているなか再び観察に向かう。雨だからか、土のにおいが強く感じられる。カタクリを見てみると、前回と同じすがたで生えていた。雨であたりが暗いため、ひっそりとたたずんでいるように見える。まだ枯れていなくてよかったと胸をなでおろした。カタクリとつるりんどうして別宮先生は、つるりんにカタクリを植えたのだろうか。カタクリとはどのような植物なのだろうか。疑問を抱えて、別宮先生のもとをたずねた。別宮先生はつるりんの保全を行っており、ご自身が担当する生物ゼミでもつるりんに生息する生き物を見守っている。つるりんのカタクリは、約20年前に別宮先生がまいた種が育ったものだという。当時受けもっていた学生の、卒業研究の対象がカタクリだった。それをきっかけに、山梨県内では限られた地域でしか自生していないカタクリの種たねをもらい受けたそうだ。カタクリの種しゅが途絶えることがないように、先生はもらった種たねを学内に植えることにした。つるりんには冬から春にかけて葉を落とす木が多い。すると、ちょうどカタクリが地上に葉を出す4月から5月のあいだは日光が当たる。この期間にカタクリは光合成を行い、花を咲かせる。光が当たりすぎても水不足で枯れてしまうが、つるりんは校舎のすぐそばにあるため、日陰ができやすい。それに豊富な土壌と落葉があることで、水を含みやすく、乾燥を防ぐことができる。つまり、つるりんはカタクリが生きるのにとても適した場所なのだ。はじめてのつるりん4月19日、地域交流研究センター協力研究員の菊きく池ち香かほ帆さんと一緒に、つるりんの観察に行く。春らしいぽかぽかした天気だが、つるりんのなかは木陰のおかげか涼しい。入り口をふさぐようにモミジが枝を伸ばしていた。葉を見てみると、まだ折り畳まっていたあとが残っている。これから手のような形へと生長していくのだろうか。文大と生きるつるりん本学1号館とグラウンドのあいだに林がある。入り口の掲示板には、「つるりん」という名前で紹介されていた。つるりんには、どんな草花が息づいているのだろう。そして、つるりんとはいったいどのような場所なのだろうか。カタクリの実(2024年4月17日)(菊池香帆さん=写真提供)
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