117号HP用
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4545坂を上って出会ったもの山に囲まれたこのまちは、生活のなかに坂がある。私の地元は台地だったため、坂の身近さに驚いた。坂を上った先には、どんな景色が待っているのだろう。息を切らして本学東側の坂を上っていくと、サクラの木が目の前に現れた。ここで休もう。木陰に入って深呼吸をすると、甘い花の香りで肺が満たされる。サクラの花はもう散ったのに不思議だと思い、木陰を出て歩く。すると、白いハリエンジュの花を見つけた。これが甘い香りのもとのようだ。立ち止まらずに上っていれば、気に留めなかったであろう花に心が癒される。さらに上ると、周囲は緑が深まっていく。そんななか出会ったのは、ハナミズキの木だった。白い花弁がうっすらとピンクに色づいていてかわいらしい。祖母の家にも植えられ坂を上る途中で見えた景色。まちのすぐそばに緑が広がっている(2024年7月3日)加納希珠(国文学科1年)=文・写真ていた木だ。私は夏や冬にしか訪れないため、花を見たことがなかった。いつもかわいらしい笑顔を咲かせていた祖母の印象に、ぴったりの花だと知ることができてうれしくなる。身近な坂を上ると、多くの植物と触れ合うことができた。この坂は私と自然を結びつける、かけ橋のようだ。そんな坂だからこそ見られる表情をもっと知りたい。明日はどんなものに出会えるだろうか。坂に上ることが、都留での日常になった。坂下実由菜(学校教育学科1年)=文・写真花びらを触ってみると、ベビーパウダーをつけたようにさらさらしていた(2024年5月17日)すがたを変えても4月中旬、都留バッティングセンターの横を歩いていると、色とりどりの小さな花々が視界に入ってきた。調べると、シバザクラという花だとわかった。潮風に弱いらしく、海に近い地元では見ることができない花だ。新しい出会いに心が躍る。花畑が忘れられず、ふたたびシバザクラを見に行く。建物の奥から「待っていたよ」と顔をのぞかせているようで、思わず笑みがこぼれる。花が少し枯れてきているが、まだ色鮮やかな花畑が広がっていた。5月中旬の汗ばむほど暑い日、シバザクラのもとへ足を運ぶ。外に出ると、草のにおいがした。こんな日は、地元では潮のにおいがしたことを思い出す。久しぶりに見たシバザクラは、一面緑のみずみずしいすがたで、私を迎えてくれた。葉はツンと上を向いていて、とても凛々しい。太陽の光に照らされた葉は、触るとあたたかくて、思わず寝ころびたくなる。不思議と、花が枯れたことを惜しむ気持ちより、美しい葉を見ることができたうれしさが強くなる。シバザクラは春の花。花が枯れてしまえばもうおしまい。そう思っていたけれど、陽の光を浴びた葉は、とても輝いて見えた。「きれいなのは花だけじゃないよ」と言っているようなそのすがたは、私の心をぐっとつかんだ。うっすらとピンクに色づいていてかわいらしい。祖母の家にも植えられ都留のまち探検隊
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