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15写真はすべて2024年10月21日に撮影しました①商品を見ながら話すお二人 ②琉球ガラスのグラス ③とげとげしたシカの置き物 ④内装にもこだわりが詰まった店内①④②③お店に通ってくれた女性だそうだ。ある日、卒業して地元に帰った彼女から「工芸たけだ」に手紙が届いた。手紙には「学生のときは、地元が恋しくなることもあったが、工芸たけだで民芸品に触れたことで地元を思い出し、癒されてつらいときも頑張れました。ありがとうございました」という感謝の気持ちがつづられていたそうだ。私もはじめてお店に入ったとき、地元の愛媛県に住む祖母の家を思い出した。木を使った内装が似ており、愛媛県の民芸品の「砥とべやき部焼」が置いてあったからだ。砥部焼は祖母の家にもあり、とても懐かしい。帰省には半日かかるため、気軽に帰省することもできない。地元が恋しくなったらお店に来てみるのもいいかもしれない。続けて、現在80歳くらいの女性の話をしてくださった。そのかたは、若いころ結婚を機に東京都から山梨県に引っ越してきた。新しい環境下での生活や人間関係に悩んでいたそう。商品を買うこともあったが、それよりも、お店で商品を見たり、容子さんと会話したりすることが多かったそうだ。彼女は「ここに来て癒されて頑張れる」とおっしゃっていたそう。くり返し訪れるお客さんにとって、このお店は、なにげない会話を楽しめる、居心地の良い空間なのだ。* * *お店はお客さんに商品を買ってもらわないと意味がないと思っていた。そのため、これだと思えるものがなければ、何も買えずにお店を出てしまうことから、私はお店に入ること自体が苦手になってしまっていた。だから、「お店に入ったら何か商品を買わなきゃと思うかたが多いと思うけど、見るだけでもいいから来てくれると嬉しい」と話すお二人に驚いた。この言葉には、お店で癒されてほしいというお二人の願いが詰まっている。お二人と話しているとしだいに、私の「お店は物を買いに行く場所」という先入観はなくなっていった。商品を買ってほしいという気持ちはもちろんあるが、それ以上に商品を見てほしい、心を癒してほしいという気持ちが店内にあふれていた。また気軽にお店に入ってもいいんだ、と思えると安心する。「工芸たけだ」は私のほっと一息つける居場所になりそうだ。島本彩音(学校教育学科1年)=文・写真
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