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を決意した。菊地さんは当時をふり返って、「わさび園を立て直す人が誰もいなかったし、しょうがなかった」と笑って話した。長年続くわさび園を継ぐことを、しょうがないといって、きっぱり決断することは私にはできないことだ。今のわさび園今のわさび園では、農薬を使わない自然栽培を行っている。先代からわさび園を継いだばかりのころは、農薬を使用して、畑じゅうの虫を1匹もいない状態にしていたという。自然栽培で作られたわさびがおいしいと野生動物もわかるのか、イノシシやシカが、山から畑に食べに来るそうだ。そんな野生動物から畑を守っているのが、番犬のハクだ。ふだんは人懐っこい性格で、近づくと私の足にぎゅっと前足を絡ませてくる。そんなかわいらしいようすとは裏腹に、自分よりも大きなイノシシやシカを捕まえることができる。農薬を使用していないからこそ、人だけでなくイノシシやシカも食べたくなるような、おいしいわさびができるのだろう。学び合いの場10年ほど前に始めた収穫体験が、最近人気になってきているそうだ。菊地さんがSNSを活用してわさび園を宣伝しているからだろうか。県外や海外から来られるかたが多くなっているという。収穫体験でもっとも人気があるのが「圧!圧!体操」だ。この体操の名前は菊地さんが考えたもので、一度聞いたら忘れられない。この体操は、足を肩幅ほどにひらき、両手を空に向けて広げる。その体勢で菊地さんの「圧」という大声に続き、体験に来たかたが「圧」と復唱し、腕を上下させる体操だ。この体操をとおして、菊地さんは来たかたと楽しそうに交流していた。一緒に体操をすることで、菊地さんと収穫体験に来たかたとの距離がぐっと近づいている。収穫体験は、菊地さんがわさびのことを一方的に教えるだけではない。収穫体験のなかで海外のかたから外国語を勉強したり、他の地域の話を聞いたりなど、菊地さんにとっても、新しいことを学ぶ場となっているそうだ。菊地さんのこれまでの歩みは、大学生の私にとってかけ離れた生活だった。菊地さんは、わさび園を継いで自然栽培を始めた。長い歴史を持つわさび園の栽培方法を変えることは、勇気がいることだっただろう。菊地さんのお話を聞いているうちに、菊地さんの行動力は、菊地わさび園を守りたいという想いから来ているように感じた。私にはまだ、菊地さんのように一歩踏みだす行動力がない。菊地さんのように、考えたことをすぐに実行できる人になりたい。これからの生活のなかで、何か新しいことに挑戦することがあったら、迷わず挑戦したい。紀州犬のハク。今年に入ってイノシシを2匹捕まえた(2024年10月19日)山口夏美(学校教育学科1年)=文・写真

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