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39右田ゆずる(国文学科1年)=文・写真クサギの花と実。白と赤紫の色合いが目を引く(2024年9月8日)実が少し見える。がく44は放射状に開いている(2024年9月23日)青くなった実。熟した実は染料に使われる(2024年10月14日)クサギの花が実になるまでるという。観察を続けていれば、クサギの実の変化を見られるかもしれない。私は頻繁に新棟近くの道路を訪れるようになった。9月のある日、くもり空のもとクサギを見に行くと、花はすべてなくなっていた。残されたがく44が開き始め、なかの実が見えているものもある。今の実はうすい黄色だが、熟すと鮮やかな青になるそうだ。青い実なんて見たことがないため、どんなすがたなのか想像もつかない。これからの変化に期待で胸をふくらませつつ、その場をあとにした。1週間後、もう一度道路に行ってみる。がく44は、この前より大きく開いていた。あらわになった実は青く色づき始めている。話には聞いていたが、本当に青くなるのかと思わず見入ってしまう。こんな不思議な木が身近にあったのか。いっそうクサギへの興味が湧いて、もっと色の濃くなった実が見てみたくなった。10月中旬、実がどうなっているか気になって出かけていく。道路のはしに立ち止まって木を見上げると、ほとんどの実はがく44が開き、青くなっていた。熟して濃い青になっている実もある。がく44の色も実の色も鮮やかで、木に飾りがついているようだ。クサギが今のすがたになるまでの過程を知っているからか、成長を見届けたように感じて明るい気持ちになる。何度も見に行くうちに、クサギへの親しみが湧いていた。*  *  *秋は、春に比べて花が目にとまりにくい季節だ。ぼんやりしていると見逃してしまいそうになる。花の目立つ季節ではないからこそ、秋の山へ行き、自分から花を探そうと動いてみた。すると、タマアジサイやクサギに出会い、自然との距離がぐっと縮まった。自分から近づけば、今まで縁のなかったものでも、好きになれたり仲良くなれたりするのかもしれない。探した花を何度も見に行って、はじめて知ったこともある。日常生活のなかで、花の変化を目にする機会は少ない。しかし、観察を続けたことで、花がすがたを変えていくようすを見ることができた。これは、ふだんのように過ごしていたら得られない体験だ。「秋の花さがし」を通して、自分から行動を起こすこと、何度も足を運ぶことでこそ、新たにわかるものがあるのだと気づいた。

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