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9素材の味にこだわるわけ循環農法の野菜に出会う前、英治さんは、安くておいしいから、添加物が含まれているものを多く食べていた。そのせいか、体には発疹ができ、体調が悪くなることもしばしばあったそう。しかし、有機野菜を食べ始めてから不調は改善し、病気にもかかりにくくなった。この経験から英治さんは、「みんなにも無添加でおいしいものを届けたい。こだわって作った野菜はわずかな調味料だけで調理してもおいしいってことを知ってほしい」と思うようになったそう。三輪農園の野菜はとてもおいしいから、にがりたっぷりの塩や自然由来の油で味付けするだけでじゅうぶんなのだという。じっさい、三輪農園の野菜を食べ始めてから、体調が良くなった人も少なくないんだそう。お二人は、私が訪れるたび、こだわりの野菜を使った料理を振る舞ってくれた。一人暮らしを始めたばかりで、食に気をつかえていなかった私に、美和子さんが「いっぱい食べてね」とほほえんでくれる。お二人の優しい人柄に、心が落ち着く。三輪農園の野菜もそんなあたたかさが込められた優しい味がした。*  *  *農業は、天候や動物の被害などを受けやすく、野菜に真摯に向き合っても報われないことが多い。それでも、お二人が野菜作りに向き合い続けるのは、私たちの健康や、日常が良くなることを願う気持ちからだった。どんなに手がかかっても、自然そのまま、栄養豊富な野菜を届ける。そのために、毎日天気予報とにらめっこして、野菜を育て続けている。三輪農園のおいしい野菜の一番の隠し味は、受け取る人の健康を第一に考えるあたたかい想いだった。て、土が痩せてしまう。自然な状態を保つことが本来の農業の形だと考えているからね、草はなるべく抜かないんだ」と話す。草を敵と捉えないこの言葉は新鮮だった。手間をかけてでも、自然そのままの環境で育てた野菜を届けることへのこだわりを感じる。英治さんが、農業の道に足を踏み入れるきっかけになったのが、赤あかみね峰勝かつと人さんというかたが育てた野菜だった。野菜が大嫌いだった英治さんは、循環農法で作られた野菜を食べて、はじめて野菜をおいしいと感じた。野菜の本当のおいしさを知った驚きと感動から、赤峰さんの教えを受けつつ、農業について学び始めたそう。英治さんは、農業のノウハウや、野菜への向き合いかたを赤峰さんから多く教わったという。「農家は、野菜がベストパフォーマンスを発揮できるように、土づくりなどのお手伝いをする仕事」。この赤峰さんの言葉は、英治さんの農業に対する想いの根幹にあるようだ。タマネギ畑で、それを見ることができた。英治さんは、「玉ねぎは芽全体で呼吸するから、呼吸しやすいように芽の周りの草を抜いて、生長をサポートするんだ」と話す。英治さんの野菜は、赤峰さんの教えと自身の経験の結晶だった。三輪農園の野菜を使った料理。秋山さんご夫婦との食事は、実家を思い出すあたたかい空間だった(2024年9月26日)坂下実由菜(学校教育学科1年︶=文・写真

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