フィールド・ノート No67
10/48

FIELD.NOTE10都留文科大学から車で30分ほど。新しんひなづる雛鶴トンネルを抜け左手に入るとすぐ、背の高いスギに囲まれて、沢のそばに小屋が見える。Studio Y.E’S(スタジオ ワイイーエス)の工房だ。 迎えてくださったのは有馬保男さん、奥さんの石塚えみこさん(54)、息子のこうじさん(22)。食堂で温かいブルーベリーの紅茶をいただく。食卓の椅子とテーブルはもちろん、この家も有馬さんの手づくりだという。 「家具は使ってもらって初めてよさがわかるもの」とえみこさん。たとえばちょうどよい高さだとか、手に馴染む触り心地だとか。毎年春に、代官山で展覧会を開いている。そのほかにも藤野でスツールづくりのワークショップを開いたり、上野原駅前では、ここの家具をおいたレストラン「ゆめキッチン」を開いたりしている。 気になっていたオニグルミのベンチについてたずねると、あれは春、展覧会で忙しいときに急いで仕上げた、焼印を押し忘れてしまったと笑いながら有馬さん。 有馬さんはもともと新宿で設計の仕事をしていた。現場で大工さんの技を「ぬすみながら」、趣味で家具づくりを始める。えみこさんはグラフィックデザイナー。子育てを機に二人でこの山へ移り住んだ。以来約22年間、家具づくりの工房を営んでいる。材を生かす 始めたばかりのころは材の調達に苦労した。徐々にルートを開拓していった。使うのは主にこのあたりに生えている木だ。 「木は伐きって終わりではない。息をしている」とえみこさん。湿度の高いこの森で呼吸して育ったものを、乾いた東京へもって行けば、当然くるいがでる。「わたしたちが東京へ行ったら肌が乾燥するように」慣れない環境の変化が、家具にあらわれてしまう。木が育ってきたところと同じ環境で使うことで、家具は長もちするのだ。 使う材の樹種はスギやヒノキ、クルミ、カシ、ケヤキ、クリなど、さまざまだ。柔らかさ、堅さ、色、質感の違いで選ぶ。木のなり00をみて、できあがりをイメージする。これが「序章」とえみこさん。有馬さんは「木が立っていたときの状況を残しておきたい」という。たとえば今使っている食卓のテーブル。ふちは、木の面めんぴ皮の曲線をそのまま生かしている。 木の形だけではない。たとえば人工乾燥させた材は水分だけでなく、樹脂などの成分までとんでしまって、木の本来の性質が失われてしまうという。 Studio Y.E’Sでは自然乾燥に近いやりかたをしている。最低でも1年屋外で自然に乾かしたあと、35度の乾燥室に移して2〜3週間寝かせる。カシやナラなど、密度の高い木なら、さらにもう1年はかかるそうだ。こうして時間をかけて乾燥させた材は、木の香りが違うという。木の「質」も、材の扱いかたによって大きく変わるのだ。 どこの木を使い、そのなりや質をどう生かし、できあがったものをどこで使うのか。材を選び、つくり、使う。初めから終わりまで、どうやったら木が一番生かされるかという姿勢のもとに、Studio Y.E’Sの家具はうみだされていく。 工房のなかを案内していただいた。外にはカシやエノキの板材。一緒に立てかけてあるのはつくりかけのテーブルの脚だ。な’ 駅の待合室にあるオニグルミのベンチ

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る