フィールド・ノート No67
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13は、つくっているようすを見ていたそうだ。 鈴木さんは自分自身をプロと呼ばない。とはいえ、作品はとても丁寧な仕上がりだ。何年も前からたくさんつくり続けているという針金の三輪車。つくり始めた当初のものと、最近つくったものを並べれば、一目瞭然。針金の巻きは隙間なくきゅっと詰まっているし、地面をなめらかに走る、バランスのとれた形に改良されている。スプーンになった床 「ヒマにまかせて」いろいろなものをつくる鈴木さん。今住んでいる家のリフォームにも関わったそう。ここはこうしよう、あそこはああしよう。大工さんと一緒に現場でアイディアを出し合って改築を進めたと言う。 鈴木さんは部屋の奥から箱を取り出し、木のスプーンを見せてくださった。大きさや形、色はみんなばらばらだ。「これはサクラ、それはニセアカシア……これは床材」 改築をすると、どうしても不要な材木が出る。鈴木さんはそれを使ってスプーンをつ右:大小や色、形のさまざまなスプーン。円形のスプーンの中央から放射線状に年輪がつくように削っているものもある / 中央:スプーン、笛、カキ渋で染めたコースター。コースターは地区の生涯学習活動の一環でつくったそう/左:自転車・三輪車シリーズ。左が初期のもの、真んなかは最近つくったもの。一番右は二輪車で、スタンドがついている  たとえば部屋に置かれたゆきま棚や、「ポニ」に並ぶ入れものがそう。ゆきま棚はもう少ししたら依頼主のところへ届けられる。「ポニ」に並ぶ入れものは、店主につくって欲しいと頼まれたのだという。「お金をもらうのは気が引けるから」。受け取るのはたいてい材料費だけだ。「ものをつくってそれで食べてる人って大変だと思うよ。大きな家具は(値段が高くて)なかなか売れないけど、こういうスプーンとかだったら欲しいって言う人は結構いるんだよね」 鈴木さんは工業分野の学校へかよったわけではなく、ものづくりで食べていこうとも考えていない。けれど、つくったスプーンはきれいな形をしていて、プロと呼んでもよさそう。でも、それをゆるゆると否定する。どうしてだろう、ものづくりを商売にしている人への敬意なのだろうか。 「昔からつくるのが好きだったんですか?」私の問いに鈴木さんはパッと顔を明るくして、そうそうという。鈴木さんのおじいさんは、よくいろいろなものをつくる人だった。お兄さんと一緒におじいさんの後に続いて

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