フィールド・ノート No67
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FIELD.NOTE24 私が訪れたのは12月1日、水曜日の夕方。「高源寺文庫」の最後の開館日である。甲府駅に近い県立図書館から50分ほど歩いたところに高源寺はある。門をくぐって、右手に伸びる飛び石の道を進むと本堂の横に「高原寺文庫」が姿をあらわすのだ。広さ6畳ほどのスペースの壁にそって並べられた本棚には四千冊近い本がびっしりとつまっている。これらの本を管理しているのが住職の斎さいとう藤洋ようこ子さん(66)。明るく、にこやかな表情がとっても似合う人だ。文庫の歴史 高源寺文庫が誕生したのは、昭和54(1979)年5月9日のこと。それ以来、31年半の長きにわたって毎週水曜日の午後に開館した。まわりに田んぼしかなかった時代。しかも、近くの小学校は出来たばかりで設備が整っていなかった。公立図書館も遠く、高源寺文庫は学校帰りの子どもたちで溢れていたという。 私がお邪魔しているあいだにもたくさんの子どもとお母さんたちが文庫を訪れていた。「この人たちは二世なの」 斎藤さんはさらりと口にする。今、子どもを連れてきているお母さんの多くはこの文庫の本を読んで育った。「やっぱりなくなるのは寂しい」。お母さん方は口々にそうつぶやく。高源寺文庫は、お母さんたちの憩いの場としても大きな役割を果たしていた。今から数十年前、山梨県のあちこちに小さな図書館がつくられました。「地域の子どもたちに読書の楽しさを知ってもらいたい」。そんな気持ちから自宅の一部を開放して作られた「文庫」や「一坪図書館」。子どもたちの笑顔が集まるこの場所も、今だんだんと数が減ってきています。2010年の12月、31年半の歴史に幕を下ろす、甲府市の「高こうげんじ源寺文庫」を訪ねました。小さな図書館斎藤さんとそのお孫さん

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