フィールド・ノート No67
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29牛丸景太(国文学科1年)=文・写真下宿のようす共同のトイレや洗濯機も同じ2階にあるい、お客さんへの真摯な態度なのだと思う。泰安温泉に広がる人の繫がりは、きっとこうした気配りに支えられながら生まれてくるのだろう。 ◇ 下宿アパートを始めたのは30年くらい前のこと。ほかの銭湯は2階に喫茶店などを増設して経営を始めていた。だが喫茶店などは維持していくにもかなりの費用がかかってしまう。そこで、都留には学生が多く集まることを考え、下宿用の部屋を作ることにした。七畳半から八畳の広々とした部屋は当時とても珍しく、銭湯にはいつでも入れるということで人気を集めた。現在は9部屋を貸していて、いまだに空きができたことがないという。「みんなとっても仲がいいですよ。いまそういうところ、少ないんじゃないの」と古屋さん。同じ学年はもちろん、先輩が後輩の面倒を見る思いやりの関係が長年に渡って続いてきている。引越しともなれば総出で荷物運びを手伝ってくれるという。今年の春も、進んで作業を手伝ってくれた上級生の姿に、古屋さんは心を動かされたと話す。「毎日会うから家族も同じね。できることは何でもしてあげてますよ」。ここにも古屋さんの気配りが活きている。いつも常連さんを大切にしているように、学生を家族のように思って気にかけているのだ。「できることは何でもしてあげたい」という思いからは、古屋さんの人柄が伝わってくるようだ。でも余計な干渉はしない。そっと見守り、それとなく声をかけることも学生への気配りのひとつなのだろう。そうして古屋さんと学生との関係は、大学卒業後もずっと続いていく。もう何年も行き会わないけれど、手紙や年賀状のやり取りが続いている。なかには遠いところから会いに来てくれる人もいるそうだ。再会のときは結婚の報告や、子どもの誕生といっためでたい知らせがお土産ということも。一緒に嬉しいことや喜ばしいこと、ときには不安な気持ちも分かち合う関係は、ほんとうに家族のようだ。* * *泰安温泉は地域の人たちにとって憩いの場所であり、学生にとっては帰る場所、帰る家でもある。きっとここには古屋さんが大切にしている思いや、たくさんの人の繋がりが折り重なっている。そこからは温もりが生まれ、泰安温泉がとてもあったかい場所になっているような気がした。
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