フィールド・ノート No67
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31だった。結局、クマを追うことはしなかった。この森でクマが暮らしている。その事実を目の当たりにできただけで十分だった。身近な森とはいえ、そこは自然のなか。親しみを持ちつつも、歩み寄るのには一線があることを忘れてはいけない。8月27日のツキノワグマとの一件以来、彼らと無意に出会わないよう鈴を付けて歩いている。それでも鈴をずっと付けて歩くと音が気になるので、彼らがいないだろう000000という場所では外して歩いている。そんな場所に限って、彼らの新しい糞を見つけてゾッとすることもしばしばだ。こんなふうに森歩きをかさねるうち、僕のなかに少しずつ「慣れ」が生じてきているのを感じる。11月11日。藪からのガサガサという音を気にも留めず、ガビチョウだと高を括って素通りしようとした。その瞬間、イノシシが目の前の道を猛スピードで横切ったのである。何かの拍子にイノシシを刺激していたら、突進されていたかもしれない。都留文科大学大桑楽山公園都留自然遊歩道馬頭観音R139ツキノワグマ、痕跡と位置関係西丸尭宏(社会学科4年)=文・写真※山に入るさいはクマ鈴をつけるなどして、野生動物との距離の取り方に気をつけてください。ツキノワグマの行動圏にしても、イノシシとガビチョウの勘違いにしても、自身の経験のみに基づいて判断してしまっていた。僕は森歩きに慣れるにつれ、生きものたちとの向き合い方が雑になっていたように思う。経験から培った知識に気を取られ、その場での観察を怠っていたのである。経験は信頼できる指標ではあるけれど、「答え」ではない。その都度の観察と相まって、はじめて自分の糧となっていく。出会いに対する「慣れ」への戒め。そして、つねに新鮮な観察者であること。ツキノワグマやイノシシとの出会いをとおして、森歩きをより深めていく術を学ぶことができたような気がした。││││12月16日、「都留自然遊歩道」に初雪が舞った。朝の短いあいだのことで、雪は5㎜ほど積もって、お昼には融けてしまった。動物たちの足跡が顕著になる雪の季節。いったいどんな出会いが待っているのか。今から胸を躍らせている。足跡(スケッチ)10.08.27分岐ギンナンを含んだ糞10.11.11サルナシを含んだ糞10.10.14案内板に付いた体毛10.10.07およそ12㎝

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