フィールド・ノート No67
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33が、重要なのは自分の経験で理解することでした。聞きかじった借り物の知識だけでは、いつまで経っても「知る」ことはできません。毎日見るよさは、昨日の観察にきょうの出来事を上書きしていける点にあります。昨日とはちょっと違う、いや同じだ、といったイメージをもって歩けることは、全体を知る手がかりになります。それを積み重ねていくと、リアルタイムで動態を把握でき、後追いではない観察ができる。不思議に思った行動を注意深く観察し、その意味に迫ることも可能になります。毎日見に出かけると、「きょう」という時間は昨日の延長であるわけですから、週に1回とか、月に2回といった観察とはくらべものにならないほど多くのことが見えてきます。自分の目で確認する楽しさ夏の終わりから早春に山を歩いていると、カラ類の混群に出会うことがあります。カラ類はシジュウカラやヤマガラ、ヒガラやコガラなどの鳥類のことで、混群はそれらが集まった群れを指します。時期や場所によって異なりますが、20羽前後の鳥類が集まって混群を作ります。混群で山を移動しながら食物を取っているのです。カラ類が夏の終わりから混群を作ること、その群れの大まかなメンバー構成はこれまでの観察や文献から知ってはいました。しかし最近、カラ類の混群を集中して観察する機会があり、なるほど、これが「自分の経験で理解した事実にするという作業」なのかと思う場面がありました。カラ類が食物を取るところを見ていると、多くの個体がアカマツの球果に止まり、そこをつついていました。いつものように虫を取っているのかと思っていると、球果から種子を取り出して食べています。初めて見る行動でした。虫を取っている個体もいるようでしたが、種子を取っているものがほとんどです。この観察例により、カラ類はアカマツの球果から虫や種子を取って食べますが、種子の場合は熟して、球果が開いているときしか利用できないことが明らかになりました。カラ類のこの行動を見たときは、ちょうどアカマツの種子の熟す時期でした。それ以前もカラ類を観察していましたが、球果よりも枝先や幹で食物を探していました。知識として知っていることを、じっさいに野外で自分の目で確認する楽しさ。知ることは、楽しい。知ったところから、さらに新しい発見が生まれる。こうした作業をしていかないと、「思い込み」だけしか残りません。そのためには、毎日、歩きに出かける必要があるわけです。でも、毎日山を歩いても、知り尽くせない世界があります。それは、私たちの身近なところにあり、思いのほか深遠だからこそ心惹かれ、繰り返し出かけるのだと思います。アカマツの球果に止まるヒガラ

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