フィールド・ノート No67
34/48

FIELD.NOTE34自然の息吹を伝える水の流れ●文・写真 北垣憲二(本誌発行人)木々の葉がすっかり落ち、森が明るくなると私は冬の訪れを感じます。大沢でも岸辺に日が差し込み、岩のコケが鮮やかに照らし出されます。秋も終わりに近づくと、落ち葉が上流の自然のようすを確かに伝えてくれます。川にはさまざまな落ち葉が流れてくるようになりました。ミズナラの葉などは源流付近の標高の高い場所から流れてきたのでしょう。落ち葉だけではありません。秋に熟したアケビやクでパイプで水を引きました。湧水地まで中屋敷の観察小屋から120mほど離れています。そのあいだを直径20㎜のパイプでつなぎました。湧水地からパイプを通って流れ出る水は観察小屋の前で池となりました。永遠に流れ出るかのようなこの水は、コオイムシやミズカマキリ、ヤマアカガエル、シュレーゲルアオガエルなど多くの生きものを育むまでになりました。パイプが長いだけに手入れが欠かせません。湧水地と観察小屋の高低差もわずかしかないため、パイプに石や落ち葉が詰まるとすぐに水は止まります。中屋敷では湧水地の見回りが散歩の日課の一つとなりました。11月12日、小屋前のパイプから出てくる水が濁っていることに気づきました。このようなことはこれまでありません。そのため私には、どうして水が濁っているのかまったく想像できませんでした。すぐに湧水地に出かけることにしました。近づくと、体長60㎝ほどの動物が歩いています。さらに近づくと脚と尾が短いことなどからイノシシとわかりました。イノシシは私の姿を警戒するようすもなく一定のリズムを刻んでゆっくりとこちらにリの実なども流れてきます。まさに川はさまざまなものが流れ込む栄養豊かな場所であると、はっきりと実感できます。さらに流れてくるものを注意して見ていると、たとえば上流にはどんな植物が生えているかも想像できます。川は上流の自然の動向をも伝えてくれます。中屋敷の散歩でも大沢と同じような経験をしました。中屋敷では、2006年に地主の渡わたなべむねお邊宗男さん(80)と湧水地から観察小屋ま川にたまった落ち葉

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る