フィールド・ノート No67
38/48

FIELD.NOTE38││まず、歩いてみての感想は? 市太:はじめの目的地にはたどり着けなかったけれど、私たち甲府まで行けたんだね。前にひとりで行こうとしたことがあったんだけど、途中で諦めてしまった。だから、自分の力だけで甲府まで行けたっていうのがほんとにすごい。石川:今回歩いた道を車で通ったことはあったけれど、道が繋がっているっていう実感がもてなかった。実家は実家で、今住んでる都留は都留。なんとなく遠い存在だったというか。でもトンネルを歩いていって、「あ、甲府盆地が見えた!」、つながってたんだって初めて実感がわいたというか。市太:意識のなかでつながった……?石川:そう、道ってつながってるんだっていう実感がもてた。市太:なんかわかる! あたり前のことなんだけど、自分でずっと全部たどっていったから、確実につながってたんだっていう実感。あと、途中で攘じょうい夷志士たちの碑があったから、昔の人たちが馬で通ったのかな、歩いてきたのかなって思うのもけっこう楽しかった。││山梨はどうだった?市太:大月から、どこまで登っても登り坂なところに驚いた。坂道が無くて当たり前の場所に住んでたから。地元は平野で、高低差を考えずに地図をみる癖がついていた。そうやってひとりで考えて自転車で行こうとして、結局断念した。石川:へぇ! 私は坂があるのが当たり前だったからな。歩き疲れてやっと坂を意識したかも。勝沼で上りと下りの坂が繰り返し歩いたとき、あぁ、坂がつらいって。市太:勝沼まで意識しなかっただなんて! 私は都留市内からずっと坂を歩いている気でいたよ。道中、2人の疲れるポイントが違ったよね。坂の感覚が違ったからなのかも。でも1人だったら絶対、甲府すら行かずに諦めてました。石川:私もです。最初の目的地にしていた私の実家なんて、考えられなかったかも。山梨をゆく対談山あり谷あり。フルマラソン(42.195㎞)とほぼ同じ距離を歩いてみたら、それぞれの感想は、育った地形に則していました。おわりに  ー市太佐知      今回の行程で2人に共通した感想は、訪れた場所の一つひとつが点から線へとつながっていく感覚と、都留から甲府まで歩いたという大きな達成感だ。とにかく疲れたけれど、同じ道のりをお互い1人きりでは歩き抜けなかった。そんなふうに一緒に歩いた道なのに、2人の感じ方は全く異なっていた。私が急な坂を登ったつもりでいても、石川さんはその坂を平坦な道を歩くように進む。お互いが育った土地の環境の違いが、坂道をきっかけにこんなに現れるとは思いもしなかった。今回、じっさいに長い道のりを歩いて、道がつながっているという常識的なことをあらためて実感した。そして、2人で歩くことで、お互いの「視点」を分かち合うことができたように思う。歩くことをとおして、当たり前のことを自分で確かめてみる大切さや、人と経験をともにするたのしさに気づけたことが、何よりの成果だった。

元のページ  ../index.html#38

このブックを見る