フィールド・ノート68号
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FIELD.NOTE18たとえ姿をみることができなくても、音が心を満たしてくれる時間だ。5分くらい待っただろうか。20mほど先の林床を茶色く小さいものが横切った。アカマツの影から身を乗り出し姿を追う。リスだ。ときどき止まっては首を伸ばし、周囲に気を配るような仕草をする。これがあの「足音」の正体だったのだ。リスと言えば、ほとんど垂直な幹を上へ下へと自在に駆ける。僕はそれが不思議で仕方なくて、ずっと手足がどうなっているのか気になっていた。その疑問を胸に森を歩き続けた結果、願いに答える出合いが1月6日にあった。僕がテンの糞を見つけて、採取しようかとしゃがんだときのこと。すぐそばのアカマツからリスが降りてきた。目と鼻の先とはこの2010年の4月21日から、毎週「都留自然遊歩道」(以下、森と表記)を歩いている。元坂の馬頭観音から入り、大桑まで歩く(8月27日から。それ以前は楽山公園までだった)。ひとつの場所にかようことを通して感じたことを、3回にわたってお伝えしたい。を歩き始めてそろそろ一年を迎える。森歩きのことを振り返るには、森を歩きながらがもっともよい方法だと思い、2月からはこれまでの出会いを振り返るように歩いた。そのなかで、リスとの出会いが僕のなかに鮮明に残っていることに気づいた。カサカサッ。12月23日、大桑から矢糸沢フィールドに抜けるアカマツ林で、なにかが落ち葉を踏む音を聞いた。軽い音だから大きな動物ではないだろうと、アカマツの影に身を隠し、じっと待ってみることにした。カサッ…カサカサッ、……カサカサッ。進んでは止まることを繰り返しながらも、少しずつこちらに向かってくる。落ち葉が奏でる森の足音は、出会いの瞬間までのたのしみを演出してくれる。エナガやシジュウカラ、ヤマガラが鳴き交わす声も混じって心地よい。森歩きの野帳からリスとの出会い第3回朝、大桑でリスと会う。尻尾を振りながら、身体を幹にこすりつけていた(2011.02.09)スギの根元に残ったリスのものと思われる足跡(2011.02.13)

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