フィールド・ノート68号
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 以前から気になっていた屋根裏のムササビ。同じ個体かどうかは分かりませんが、1月5日に自宅近くのサクラの木で、ムササビを目にしました。継続的にもっと見てみたいと思い、1月6日からほぼ毎日、屋根裏を眺めることにしました。 夕方、仕事から帰って駐車場に車を置いたら、カバンから赤いセロハンを張った懐中電灯を取り出し屋根裏を見上げます。巣穴のなかから赤く反射させた二つの目。それを確認したら腰を下ろし、飛び立つのをじっと待ちます。出しゅっそう巣を見届けたあとは、光で足元を照らさな僕が住むアパートの屋根裏に開いた、直径30センチほどの穴。そこにはムササビが一頭棲んでいます。屋根裏から「ジャッ」と音をたてて蹴りだし滑空していく姿。その姿に惹かれるがまま出会いを重ねていくと、夕暮れ時に聞こえてくる不思議な音が気になるようになりました。見えたムササビをとおしていと不安なくらいあたりは暗くなっています。耳を澄まし、なにか気になる音が聞こえたらそちらのほうへ向かう、聞こえなかったら帰宅するという、気ままなひと時を過ごしています。出会いを重ねていくうちにしぜんと明らかになってきたことがいくつかあります。 1月の出巣時間は17時30分〜45分のあいだのようです。仕事を終え、急いで帰宅すれば間に合う時間です。このことは気軽に、そして継続的にムササビと出会うことができる大きな要因となりました。 アパートの南はところどころ地面が削れて崖になっている急斜面です。その下には県道が走っていて、そこへ歩いて下りるための舗装された小道がアパートの横から続いています。その周りに生える木々に少なくともほかに二頭のムササビが棲んでいることも明らかになってきました。屋根裏のムササビが飛び立つのを待っていると、背後から「ギィィィ」「グァァァ」などと別のムササビのがらがら声が聞こえてきて、すぐ後ろを滑空していくこともあるのです。 滑空コースが一つに限られていることは興味深いことです。どうやら巣穴の半分近くを塞ぐ屋根裏の鉄筋が邪魔をしているようでした。滑空コースの下で待機していたら、思わず首をすぼめてしまうほどの高さを滑空していきます。 いっぽう疑問に思うことも出てきました。あたりが暗くなりはじめたころ、「コトン、カサカサカサ……」と、斜面の下から何度も聞こえてくる音です。ある程度の重さと堅さのあるものが、落下して斜面を転がるような音。動物が下の斜面をこっそり歩いているような音にも聞こえました。毎日必ずというわけではありませんが、暗闇のなかからその音が聞こえてくると、未知の世界がやってくるような胸騒ぎがするのです。得体の知れない謎の音に少し不気味さを感じながらも、その音の主に興味を持つようになりました。音の正体を知る  2月2日。この日は18時をまわっても屋根裏のムササビは顔を出しませんでした。ここ数日は日によって出巣時間に15分程度の差が出ています。このまま帰宅するのも物足りなく感じたので、県道へと続く小道を歩くことにしました。すると頭上から「グァァァ」と鳴き声が聞こえてきます。手すりを越えた急狩野慶(ゆずりはら青少年自然の里)=文・写真

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