フィールド・ノート68号
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FIELD.NOTE28ページ中央の写真:上は砂利状の炭、下の3つは加工した炭に和紙をあしらったもの都留市、大野。行く手には壁のように立ちはだかる、急な山道が続く。自転車をせっせと押してのぼっていると、山あいに「炭香」の文字が見えた。小俣さんの仕事場は山々の谷間に建っている。 炭焼きというと、昔ながらの小ぶりな窯で炭を焼き、山のなかで暮らす姿が浮かぶ。けれど、ここ炭香では少し違う。炭を焼いて加工し、炭製品をつくっているのだ。 炭香の三代目社長、がっしりとした体格の小俣さんは、柔らかな笑顔で話してくださった。 炭焼きを始めた経緯は20年前、初代社長の故・小松徹さんが経営していたころに遡る。当時は山さんえい英建設という社名で土木業をやっていた。大量に出た木材の処理に困り、小松さんが祖父のやっていた炭焼きを思い出して、炭の研究を始めたのだ。小松さんの代から始まり、炭の研究を重ねて7年。特許製品、「サイエンスボード」を開発した。サイエンスボードは壁や天井用材になる炭の板で、脱臭・消臭などの効果があるという。小俣さんが社長となった今は土木業から手を引き、炭の技術を応用して板状の飾りや石けん形・砂利状の置きものもつくっている。炭焼きと山 炭用の木材は森林組合や民間の企業が伐きり出してきたものを使っている。炭を焼く温度の管理は経験と勘ではなく、機械でおこなう。 小俣さんの炭焼きは昔のとは違って、どこか山とかけ離れている気がした。小俣さんに山はどう映るのだろう。「山のことは気にしていますよ。あちこちに出かけたとき、ここは手入れが行き届いているなとか。きれいな山だと、どういう事業をしているのかなって観てる。有名な木材の産地はね、山がきれい。ただ、きれいなところをちょっと外れると、あれっ? と思う。暗い山になっちゃう」 小俣さんの言う「きれいな山」とは木々の根元に光が差し込み、草木がいきいきと芽吹く明るい山のこと。けれど「今は暗い、怖いって山ばっかり」なのだそう。 小俣さんは都留市のお隣、道志村の出身。小学生のころは、ここ大野まで川魚を獲りに来たこともあった。そのころは多くの人が山を利用し「暗い山」などなかった。それに、当時は枯れた木があったら誰でも持っ5台の炭焼き窯と小俣さん山を観る人炭から山を観る石川あすか(社会学科3年)=文・写真山と長くかかわる人の言葉には、山での豊富な経験がにじみ出ている。こう感じてから、山と歩む人のことが気になりだしました。都留には目と鼻の先に山があるけれど、私は山の何を知っているでしょう。山とかかわる人は山をどう捉え、どんなことを考えているのでしょう。「株式会社 炭すみこう香」を経営する、小俣 さん(52)を訪ねました。おまたつとむ

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