フィールド・ノート68号
30/48

り」しか見てこなかったことに気がついた。もう一度、お米づくりを見つめ直してみよう。それが今回の取材につながった。渡邊さんのお米づくり 渡邊さんによると、お米づくりは3月末、イモチ病を防ぐために種もみを消毒することから始まる。その後、もみを袋に入れて風通しのよい日陰につるして干す。苗床をつくる2、3日くらい前に降ろし、二晩お湯に入れて芽出しをする。私にとって芽出しは水に入れておこなうもの。そのため、このお話を聞いたときは「お湯に入れるのですか?」と聞き返してしまうほどだった。 種をまいた苗床には新聞紙、ビニール、保温マットをかぶせる。芽が出てきたら新聞紙を外す。さらに苗が10㎝くらいに生長したらビニールを外すのだが、その時機の見極めが難しい。「なかなか思うようにいかないら。毎 私の実家では祖父母がお米づくりをしている。私自身も大学生になってからは、長期休暇などを利用して田植えや稲刈りを手伝ってきた。作業の合間、畦に座って風を感じる時間が何とも心地よかった。けれど約2町歩ある田んぼでの作業は7日以上続き、ただ淡々と同じ作業を繰り返す毎日に、飽き飽きしてしまうこともあった。 そんな折、祖父から「お盆のあたりに穂がソラガマ(鎌のこと)のように垂れるとその年は豊作になる」という話を聞いた。稲とお米のつくり手とのあいだの静かな会話。そのとき初めて、今まで自分は作業としての「お米づく農ごよみ春には田植え、秋には稲刈り。お米づくりのだいたいの流れはわかっていても、その行程の詳細についてはよく知らなかった。一連の作業はどんな頃合いを見ておこなわれているのだろう。1月21日、十日市場で農業に携わる渡わたなべ邊宗むねお男さん(80)を訪ね、お米づくりについてお話をうかがった。

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る