フィールド・ノート68号
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35 これは花だけではなく、どんなものにも当てはまることだと私は思った。音楽、絵、景色、そして人。一つのものを見て何を思い、感じるか。そこから感じるものは、人それぞれ異なるだろう。無理に言葉を尽くすよりも、まずは何かを「感じる」ということが大切なのではないだろうか。そして、何かを感じるということが簡単そうで難しい気もした。 私も、 生け花を体験した。 まずはじめに、主役にしたい花から生ける。それから、その花を中心に空間をつくりながら、ほかの花も生ける。この「空間をつくりながら生ける」ということが難しい。 「同じ高さに、花を並べて生けると、花同士がケンカしてしまうから、それぞれの花の位置を変えたり、空間を与えることでお互いを引き立て合わせることが大切だよ」と志村さんは教えてくださった。 私は、バレンタインが近かったので、バレンタインをテーマに花を生けた。主役としたい花を2本用いて、互いの花と花を向き合わせ、ハートの形を意識してつくった。 そして、そのハートの形を引き立たせるように、周りを花や草で色をつけた。この時、花の表面を上に向けて生けることがポイントだと、教えてもらった。最後は剣山を隠すように下部に花を生けていった。そうすることで花を美しく見せることができるそうだ。 作品が完成した後、志村さんから「いいわね」と感想をいただいた。その時、私は素直に嬉しく思った。生ける楽しさ、見てもらう楽しさを感じた瞬間だった。 体験してみて、花は生ける位置によってまったく違って見えることに驚いた。見方によって主役となる花が変わり、それぞれの花の色や形が映えてくる。それがおもしろいと感じた。 生け花には、自分の思いを託すことができ、それは可愛らしくも躍動的にも、生ける本人自身のこころが映しだされる。こころの映し鏡のようだ。だから、素晴らしい作品をつくろうと意気込むことなく、自由に思いのまま生けていけるところに、私は魅了された。しかし初めての生け花は、センスを問われているようで、難しくも思えた。 生けた後は、作品をスケッチし描き残す。スケッチすることで、花の生け方の変化が記録され、自分の変化を描いていくようで、どんどん作品を書き残していきたいという気持ちになる。 花は「一日、一日」刻々と形、姿を変えていく。それは生きている証拠であり、美しい瞬間、瞬間でもある。 私たちの生活のなかにも、このように美しい瞬間、瞬間が溢れている。 忙しい毎日でも、コーヒーを一杯飲むくらいの時間はある。その時間を、花や自然に触れる時間にも充てていきたい。そして、いつも歩く道をゆっくりと歩いてみたい。 花が咲き散りゆく姿、春の匂い。今なら、そういったものを感じることができる気がする。      寺元静香 (社会学科2年)=文・写真               二つ目の作品もテーマはバレンタイン

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