フィールド・ノート68号
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FIELD.NOTE42「ガキ大将のイメージですね。安心感っていうか、自分を見守ってくれて、何かあったときには絶対的な力を発揮してくれるような」そのうえで、自然塾や佐藤さん自身は子どもたちを受け入れる存在でありたいと言う。 自然塾では佐藤さんが一方的に活動内容を決定することはない。学校とは違った学び方をしてほしい、というのが佐藤さんの願いだ。決められたプログラムのなかで動くのではなく、子どもたちがそのとき見ている方向を重視して活動をする。けれど、そういった学び方には時間がかかる。自然塾では通常の一年ごとの参加者の募集に加えて、二年目も継続して参加できる「15人枠」を導入している。 子どもたちが自分たちの力でやり遂げるためには、あえて黙っていなくてはいけないときもある。「だいたい10のうち0から2くらいのことだけは教えよう。で、後は黙ってようって心がけてます」こういったスタンスは、佐藤さんの子ども時代に原点がある。佐藤さんの父親の教育方針は、「何でもやっていい、でも最後まで自分でやれ」。この考え方のなかで育っていくうちに、自分の力でやり遂げることの大切さが、佐藤さんの心に強く刻まれるようになったのではないだろうか。 いつも枠にはまらない自由な発想をする佐藤さん。夢はありますか? と聞くと、自然塾から発展した形で寄宿舎を作ってみたいという。自分たちで生活しながら、毎日自然に触れて、ときにはケンカもして、経験と知恵を身につけていける場所。話を聞きながら想像してみる。自然塾でのにぎやかな雰囲気そのままに、子どもたちが大勢でご飯を食べたりお風呂に入ったりするのだ。佐藤さんの頭のなかは、どうしたらもっと自分が、そして皆がたのしくなるか、というアイディアでいっぱいのようだ。向き合うということ 自然塾には、引き込まれずにはいられない不思議な魅力がある。最初は取材という名目のはずだったのに、いつの間にか私自身が自然に触れて、驚き、考えて、笑う、参加者の一人になっていた。自然塾の居心地がいいのは、自分の思いを肯定してくれる場所だからだと思う。自分のやりたいことをできる場所があって、自分の感動に共感してくれる仲間や佐藤さんがいる。そのなかで培われる自信が、また新しいことへ挑戦する原動力になるのだろう。 佐藤さんは、私に子どもと向き合ううえでの一つのかたちを示してくれた。私はこれまで小さい子どもに接するとき、心配する気持ちが強くなるあまり、子どものやりたいことを制限してしまっていたように感じる。けれど、一歩近づいて子どもの声に耳を傾けてみると、大人の立場だけでは見えなかったことに気づく。子どものなかにある「知りたい、やってみたい」と思う気持ち。それを引き出してあげることで、子どもは大人が想像するよりもずっと大きく成長していくはずだ。 子どもと大人の関係ばかりでなく、立場や考えの違う人と接する機会は数多くある。人と向き合うことは、自分の目線を相手の目線に合わせることだ。そうして、相手の見ている世界を推し量ることができれば、相手を尊重する気持ちが生まれてくる。佐藤さんと子どもたちとの関係は、私の人との関わり方を足元から見つめ直すきっかけになった。皆で薪割りに挑戦

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