フィールドノート69号
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114月10日、この日は編集部の4人で桜の名所、勝山城跡へでかけた。散歩はひとりで歩くのもいいけれど、誰かと一緒に歩くのもまたよさがあると思った。春を探し、見つめる視線は人によってさまざまで、それぞれが注目するポイントは違う。農作業が始まった畑や、足元に咲く草花、桂川の釣り人など、ほかの人に指摘されなければ見落としていた光景、気づかなかった春の一面が意外に多かった。数人の仲間と連れ立って歩くことで、それぞれの発見や各自が見ている風景を共有することができ、自分の視野がどんどん広がっていく。勝山城跡を目指して歩くなかで、複数の視点から得るものが多いこと、誰かと分かち合うたのしさがあることを知った。雨上がりの匂い当初私は、雨の日に出歩くのが億おっくう劫だった。雨水で服やカバンが濡れるのはいい気がしないし、なにより靴が濡れるのが好きではなかった。でも散歩をするようになって、その捉え方は少しずつ変わっていく。しとしと雨が降る日の散歩は、感じるものがとても新鮮だった。霞がかった山並みは普段よりも色濃く、ひときわ鮮やかな新緑が目に飛び込んでくる。人影の少ない街なかはひっそりと雨に濡れ、道も建物も晴れの日には見せなかった表情をしている。たえず穏やかな雨音が聞こえる街からは、いつになく静まりかえった雰囲気を感じた。帰路につくころには雨が上がって、日が差し始めた。気温が上昇するにつれて、雨上がり独特の匂いがやってくる。この匂いを言葉でどう表現したものか。その場に臨めば、「そうそう、この匂い」とわかるのに、素直にぴんとくる表現が思いつかない。いったい、なんの匂いなのだろう。花や木などが放つ匂いだろうか。それとも土の匂いだろうか。はたまた湿ったアスファルトの匂い……?うまく言い表せない歯がゆさを感じながらも、いつもと違う空気につい深呼吸したくなった。***同じところを歩き、同じものに注目するなかでも、その季節や天候、時間帯といったもので、周囲の見え方や感じ方が変わってくる。その日によっては、思いがけない発見や新しい出会いのきっかけにつながっていく。ときに誰かと一緒に歩くことは、きっとその手助けにもなってくれるだろう。前日の天気予報はあまり気にせず、思い立ったら迷わず屋外に足を運んでいきたい。私にとって晴れの日も、雨の日も、いまではそれぞれが魅力ある「おでかけ日和」になっている。雨上がりの大学周辺(2011.05.01)ナズナの花の白さにヒメオドリコソウの紫が映える(2011.04.10)牛丸景太(国文学科2年)=文・写真

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