フィールドノート69号
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13人形ばかり見ていた。お話を聞いてからあらためてじっくりと館全体を見る。6つの館はそれぞれの柱も、青竹や黄色い竹、まっすぐな竹や曲がった竹と一本一本色も形も違っていた。世界に6つだけのお手製の館もひとつの作品だ。見せかたひとつ工夫するだけで見えやすくなり、作品全体の印象も変わってくるのだろう。上から下まで人の手で一からつくられた館だから、飾りかたも自由自在に考えることができる。メインをよりよく見せるためにはどうしたらいいのか、鈴木さんと渡辺さんの想いと試行錯誤した跡が館には深く刻まれている。館の存在感4月22日、この日お会いしたのは、重原さんと鈴すずきへいじ木平二さん(71)、渡わたなべながしげ辺長重さん(78)。鈴木さんと渡辺さんは、たくさんのつるし雛をきれいに見せるためにはどうすればいいのかを考え、館をつくった。今回の雛まつり展に参加したきっかけを尋ねると、「もともとつくることが好きだったんです」と笑顔で鈴木さんが言う。館の全体図が記されている設計図を見せてもらった。設計図には、材料の数、全体の高さや大きさは何㎝になるかと具体的に記されている。また、天井にはどこでもつるし雛が飾れるように、どのくらいの長さの格子を用いるかという案もあった。さらに材料の値段まで記されている。細かいところまで考えられているなあ、と思わず感嘆の声を漏らす。「でも、これはまだ完成図ではないんですよ」と鈴木さん。じつは、館の柱が竹ということもあり、強度が弱く、少しの揺れでもグラグラしてしまったらしい。そこで、つるし雛がどこからでも見られるように、目立たないところで補強するという考えをもとに、下部分を補強。そのさい、竹をボルトで止めていたら、竹にヒビが入ったという苦労もあったそう。展示準備が始まる3月31日まで試行錯誤を繰り返し、ようやく今の館の形が完成した。でも、展示をしている期間にも問題が発生したとのこと。竹が乾燥して、少しずつ縮んでいき、ネジが緩んでくるという。だから、3日に1回はネジを締めに来るらしい。「私たちは素人だから最初はよくわからなかったんです。いろいろと失敗を重ねてようやく完成しました」と達成感に満ちた表情で鈴木さんは教えてくれた。また、「ミュージアム都留」を入って右手の館から順番にねこやなぎ、すみれ、たんぽぽ、梅、桃、菖蒲と名前がつけられている。「春の最初に咲くのがねこやなぎで、それからどんどん春の花が咲く順番に名前をつけてるの。少しでも春を感じてもらいたいと思って」最初に館を見たときから何の意味があるのかと気になっていたが、名前の由来には重原さんの熱いこだわりがあった。どうして館の柱に竹を使っているのかを質問すると、渡辺さんが「竹は昔からすくすく育つといわれてて、縁起ものだから」と教えてくれた。館にも子どもの成長を願う縁起ものが登場していることに驚いた。最初に訪れたときは、つるし雛や雛館の設計図(2011.04.22)ボルトを使用してヒビが入った柱の竹(2011.04.22)

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