フィールドノート69号
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FIELD.NOTE14つるし雛への想い翌日、再び「ミュージアム都留」を訪ねる。この日重原さんに紹介していただいたのは、つるし雛をつくった方々だ。6人ほどのグループで森もりや屋愛あいこ子さん(58)が先生を務め「梅の館」に作品を展示している。森屋さんたちは前回の『つるの雛まつり展』を見て、かわいいと思い、自分たちも子どもたちのために、と考え今回つるし雛を作成した。これらは、すべて手縫いだという。「一つひとつが小さいから、逆にミシンでやるほうが大変かも」と森屋さん。孫や地域の子どもの出生、健やかな成長を願いながら一針一針に心を込めて、1年かけて完成させた。長い月日をかけて手の平サイズのつるし雛をたくさんつくっていくことを考えたら、とても大変そうだ。そう感想を伝えると、「家事の合間とかにゆっくりつくっているからそんなに大変じゃないかな。それに展示会があるからがんばれました」と森屋さんは作成していた期間を思い出しながら明るく返してくれた。雛まつり展の最中につるし雛を見て、子どもが喜んで頬擦りをしていたとの話も聞いたという。「そういうのを聞くとやっぱり嬉しいですね」。そう言う森屋さんたちは、本当に嬉しそうな顔をしていた。最後までつくりあげたからこそ、誰かが喜ぶ姿を見ると嬉しさが倍増する。もしかしたら、つくりあげるという力の源はそこにあるのかもしれない。また、こだわりはつるし雛の材料に縮ちりめん緬や古こふ布を使っていることだという。古布は、家にあるもう使わない着物の布だったり、いただいた布だったりするという。「80年前の布とかもあるし、成人式の時の着物とか私のお姉さんの着物とかも使ってるの」。そうお話ししてくださったのは西にしむら村理りこ子さん(69)。西村さんがつくったつるし雛のほとんどが家にあった古布を使っている。つるし雛をよく見てみると、少し色褪せているものもあり、着物だったときの名残りがある。同じ種類のものをつくっていても、材料の布がそれぞれ異なるので、違ったものに見えておもしろい。思い出の詰まった着物を材料にすることがもったいなくないのかと西村さんに尋ねると、「もう使わないからねえ」とすぐに返答があった。思い出が詰まった着物を長いあいだ仕舞っておくよりも、違う使い道で、違う形にしてこれからも活かしていく。そうすれば、子どもたちの目にも触れ、楽しんでもらうことができる、という思いが西村さんにはあるのだろう。思い出だ「つくる」を通して「うまい、へた関係なく、心が込もっていることが大事。今回の雛まつり展では、(運営から展示まで)たくさんの人が関わってくれた。それが都留のまちにもっと広がってくれればいいなと思う」そう重原さんがおっしゃった言葉がとても印象深い。手づくりの作品を展会場を入ると正面にある雛壇(2011.04.30)けでなく、子どもを想う気持ちが新しく込められる。つるし雛として生まれ変わった布は、色褪せていても何十年前に織られた着物だったとは思えないほど生きいきしているように見えた。つるし雛以外にも多くの作品が飾ってある(2011.04.23)

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