フィールドノート69号
20/48

H・D・ソローが『ウォールデン 森の生活』(今泉吉晴訳、小学館)で示唆した散歩のほんとうの意味とは何か。散歩をとおして見えてくるものとは。私たちは歩くことで、変貌する自然やまちの今を記録し、フィールド・ミュージアムのたのしみを報告していきます。●文・写真 西教生(本学非常勤講師)春が始まるときウメの蜜を吸うメジロ山歩きで一番好きな時季をひとつ挙げるとするなら、それはやはり春が始まるころです。ほとんど一年中、野山に出ているのですが、冬から春へ移り変わるときはほかの季節とは違う一種独特の喜びがあります。冬が終わり、春が始まる。気温が少しずつ上がり、暖かくなるだけで楽しくなります。これは多くのかたに共通の感覚ではないでしょうか。ソローは、『ウォールデン森の生活』の第17章で、「森で暮らしたらどんなに楽しいだろう、と私が夢を描いた理由のひとつは、そうすれば春がやってくるのを知る、豊かで確かな機会と自由で贅沢な時間を持てることでした」と言っています。山で見られる生きものは、春が近づくにつれ、徐々に変わっていきます。2月に入ると、私たちが手入れをしている果樹園のウメが、今年はいつほころぶだろうかと気にし始めます。ウメの開花を待っているのはメジロやヒヨドリも同じようで、花が咲くと蜜を吸いにやって来ます。昆虫の少ない春先、ウメの受粉作業を引き受けてくれているのは、ほかでもないメジロやヒヨドリです。第13回

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る