フィールドノート69号
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ミヤマセセリある日、いつもの山道を歩いていると、日当たりのいい地面を動くものが目に止まりました。茶色い虫が飛んでいます。忍び足で近づき、枝の上で休んでいる姿をのぞき込むと、翅のオレンジ色が見えました。テングチョウです。その近くには、落ち葉の上に止まっているミヤマセセリもいます。これらのチョウは、春を告げる昆虫のひとつです。道にクモの巣が目立つようになるのもこのころ。すると、ダンコウバイやキブシの花が咲きだします。日ごと、山に花が増えていき、木々の芽が萌え出ます。その淡い色に彩られた風景は春先だけのもので、初夏のそれとは違い繊細な感じがします。このほかにも、ヤマアカガエルの産卵や、道ばたで見つかるヒミズの死体など、春の始まりを特徴づける出来事がつぎつぎに展開され、季節の移ろいを知るわけです。これまでに見知ったことであっても、それを毎年見る喜びは、見るたびに発見があることでしょう。録画した映像を繰り返し観賞するのとは違い、野山で出会う生きものの行動は毎回おなじではありません。テングチョウヒミズの死体

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