フィールドノート69号
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土いじりが春をうたうこのごろよく自問することがある。「農」の魅力とはなんだろうか、と。都留に来て3年目になる。今年も3月までは寒さがやわらぐことなく、地元、兵庫県南西部と比べると一足おそい春を感じた。外に出たら気持ちいいだろうなと心が躍るような感覚。それが、今までの春の感じかただった。けれど、今年の春は少し違った。4月上旬のよく晴れた週末。まちを出歩くと、耕こううんき耘機の音が耳に入ってきた。音の先に目をやると小さな畑があって、土いじりをしている人の姿が目に映る。暑いわけでも寒いわけでもない、穏やかな晴天。こんな日は農作業にぴったりだ、と共感している自分がいた。そろそろ土を起こして、野菜を育てる準備をする時季が来たんだなと、頭に浮かんできた。それは、今までにはない春の感じかただった。きっと、都留で畑に携わってきた2年間があったから得られた感覚ではないだろうか。そう気づいたとき、春のたのしみがまたひとつ増えたような新鮮な気分になった。夏のトウモロコシとの出会い「農」は農家のもの。そう思い描いていたイメージが一転したのは、大学1年生の春。「農」ある暮らしとは縁遠かった私は、「wわくわくork-waku都留」というサークルに入ったことがきっかけで、野菜づくりに挑戦することとなった。鉢やプランターでの野菜づくりの経験はあったが、2アールほどの広さの畑を耕すのははじめてだった。雑草だらけで手入れがされていない畑を、夜11時すぎまで耕したのが私の畑デビュー。当時は、畑の地主さんに一部分だけ土地を借りて野菜を育て始めていたなか、すぐ真横に雑草だらけの土地があって気になっていた。地主さんによると、その土地は昨年まで市民グループが使っていたが、今年は使畑づくりに取り組む学生。場所は十日市場(2011.4.24)中屋敷フィールドにある麦畑。麦の土寄せをしに訪れた(2011.5.4)都留の「農」風景わないので耕して使っていいとのこと。それなら、雑草だらけのままではもったいないという一心で、鍬くわを振りおろしていた。そのとき、夜遅くまで雑草と格闘するようすを見ていた畑の隣に住むかたが、いなり寿司とお茶を差し入れてくださったのを今でも覚えている。差し入れのご厚意もあって過酷な開墾作業を乗り越えた達成感からか、授業の合間をぬって、畑に通える環境を気に入りだしていた。だが、夏が近づくにつれ、草抜きの大変さを身にしみて感じるようになった。アルバイトや授業の課題に追われ、定期的な畑の手入れは後回しになりがちだった。そうなると、土日にまとめて草抜きをするという始末。雑草だらけの畑は見た目も悪く、反省することもしばしばであった。1年生の8月中旬。サークルで育てていたトウモロコシが実り、はじめての収穫作業がやってきた。背がぐんと都留市法能に広がる田園。田植えを迎え水が張ってある(2011.5.11)25

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