フィールドノート69号
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FIELD.NOTE28沢の釣り沢での釣りは下流から上流へ、川の流れに逆らいながら魚を追って進んでいく。沢の途中には大きな岩が転がっており、岩が水の流れをせき止め、小さな滝を作り出している。小さな滝の下にできる溜まり、なかでも水の流れが緩やかで、数十㎝から1m弱深さがあるところ。さらに岩陰など隠れられるような場所に、魚たちは身を潜めている。沢で魚を釣るときに一番重要なのは、魚がいるポイントと自分の立ち位置の見極めだ。どんなところに潜んでいるのか、釣り上げるためにはどの位置から、そしてどんな方法で針を投げ入れるのかを考え、慎重に動かなければならない。そしてそのポイントに針を落とした後も、感づかれないようにおびき出すにはどのように針を流すべきかなど、一瞬も気が抜けない。どう動くべきか、それを考えるためには周囲の環境を注意深く見る必要がある。ただ魚のことを考えているだけでは釣りはできないのだ。それを意識しながら釣りをしているうちに、川の周りの植生が気になってくる。沢歩きに慣れない始めのうちは、手をつく岩にむすコケや足元に転がる石くらいしか見えていなかったが、徐々に慣れてくると河原の自然を楽しみながら釣り歩くことができるようになっていく。川縁にはヤマブキの黄色い花がいっぱいに咲いているところだった。繋がっているということ川魚は、人はもちろん糸の影にすら敏感に反応しすぐに隠れてしまう。魚のいるポイントは沢の各所にあるから、投げ損じた場合や、三回ほど投げても当たりが出ない場合はすぐ移動して次のポイントを狙う。多く釣りを楽しむためというのもあるが、魚を驚かせすぎないためにも、一つのポイントに長居しないのが沢釣りのマナーだ。あまりに魚を驚かせると、どんなに条件の整ったポイントでも魚は出にくくなってしまう。 大旅沢の中流で、周りに障害物がなく、魚ぎょえい影もはっきり見えている釣りやすそうなポイントを発見した。父は「うまく投げ入れれば(魚が針を)食ってくるぞ」と言う。ところが魚はかからない。針を追って来るようす5月1日朝5時頃から昼過ぎにかけて、都留市朝あさひそし日曽雌の山間を流れる大おおだるみざわ旅沢と、鹿留を流れる大おおさわ沢にて沢釣りをした。30年以上前からこの辺りで沢釣りを楽しむ父の教えのもと、慣れない沢沿いの道なき道を登りながら釣りを楽しんだ。ただ歩くでも、ただ釣るでもない、歩きながらの釣り。ふだんとは違う目線から沢の魅力を感じることができた。沢  へ

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