フィールドノート69号
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こんな みつけた。春春との出会いはひとそれぞれ。その出会いの形もさまざまです。こんなところにも、春の世界があったんだ。そんなささやかな春との出会いをお届けします。おーなり由子、新潮社、1995『しあわせな葉っぱ』 2月の半ば、中央本線で山の谷間をゆられていた時のこと。窓の外を眺めていると、山の木々に明るい若草色が点々と見えた。あ、芽が出ているな。そう思ったら同じ種類の木が何本も目に入ってくる。樹種によって芽の生え方や生える時期が違うから、あれもあれもとどんどん見つかっておもしろい。なかま探しゲームをしている気分である。 本書は、頭から芽が出た女の子の話。頭上に生えた葉っぱはリボンみたいだけれど、ほかの人には見えないらしい。女の子は葉っぱを通して、あったけれど見ていなかった世界を見つけていく。 ひょんなきっかけから、世界はがらりと姿を変える。いま見えている世界以外にも目の前に広がる世界はもっとたくさんあるのかもしれない。新しい世界の発見は、春の発見とどこか似ている。   (石川あすか)大竹英洋、福音館書店、2006『月刊たくさんのふしぎ春をさがして カヌーの旅』 「ポルタージュ」と呼ばれる道があります。そのあたりで暮らしてきた人によって踏み固められてできた、湖と湖をつなぐ道です。本書ではこの道をとおって、湖と湖を渡りながら、カヌーで旅をつづけていきます。カヌーを降りてポルタージュを歩くと、いろいろなものが見つかります。クマやムースの糞、シカの頭骨、花をつけはじめた草……。ぬかるんだ土や湿った森の空気、生きものの息遣い。ページをめくると、澄んだ冬の空気のなかに、春の匂いが漂ってくるようです。 先人の踏み跡をたどって、春の訪れをさがしにゆく。その新しく重ねられた踏み跡がまた、のちに訪れる人や来年の旅の道しるべになるのだろう。そうしてつながっていくものや、何度も更新されながら変わらずに春を告げる、そこに住む生きものたちが身を置く時間の流れに思いを馳せる一冊です。(香西恵)ブックレビュー

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