フィールドノート69号
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37いつもよりちょっと速いスピードでまちを駆け抜けるのは、歩いているときの感覚とは違う。足で地面の感覚をよりダイレクトに感じることができるし、鼻先をかすめる匂いや目の端で捉える色はぼうっと見ているときよりも記憶によく残る。走っているときの自分は何も考えていないように思う。ただ五感で触れるものをそのまま受け入れている。世界が自分のなかに入り込んでくるような、逆に自分が世界に飛び込んでいくような、そんな感覚が好きだ。じつを言うと私は走ることそのものは好きではない。けれど、家に帰る途中で「また頑張ろう」と思えるのはなぜなのか。走る場所が自分の住むまちであることが、答えの一つかもしれない。私にとって走ることは、日々移りゆくまちなみや、変わらずそこにいる人たちに会いに行くことだ。出会いの一つひとつは小さなものだけれど、続けていくうちに私と都留を強く結ぶつながりになっていた。会いに行こうという気持ちが、「頑張る」ことを苦痛ではなくたのしみにしてくれる。4月当初のゴール地点だった谷村町駅を横目に駆け足で通り過ぎるたび、もっと遠くまで行けるような気がしてくる。季節もそろそろ春から夏へと移ってきた。何となくで始めたジョギング、もう少し続けてみようと思う。大澤かおり(社会学科3年)=文・写真これまで大学に登校するギリギリまで睡眠をとることが日常だった私にとって、早朝の都留はとても新鮮だ。7時半過ぎには小学校の登校時間と重なるためか、集団登校する児童たちをよく見かける。家を出たときには静かだった道路も、戻ってくるころには少しずつ車の通りが多くなっている。だんだんとまちが賑やかになっていくようすは、この時間でしか味わえない。そんな生活を繰り返しているうちに、何度か顔を合わせる人ができた。走りながらすれ違う人たちとは、お互いに名前も知らない。それでも、目が合うたびに「おはようございます」と言葉を交わす。会う約束をしているわけでもないのに、今日もその人がいると何だかほっとする。こんな関わり方もあるのだと思う。谷村町駅と都留市駅のあいだにある高尾神社の前を走る友人

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