フィールドノート69号
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FIELD.NOTE40『野ネズミの森』(今泉吉晴、フレーベル館)に紹介されていた、ヒミズと出会う方法。ガラス板を地面に置くことで、彼らの姿を間近に見ることができるならば、とさっそく試してみました。モグラの仲間であるヒミズは落ち葉や倒木の下を掘り進むといいます。彼らが暮らしている場所は意外と近くにありそうです。狩野慶(ゆずりはら青少年自然の里)=文・写真ケースのなかのヒマワリの種を食べるヒミズ積み上げられた丸太を動かして、その下をのぞいてみます。じっとりと黒く固まった土に残された、幅3㎝ほどの溝。左隣の丸太の下から続き、この丸太の下で止まっています。この溝にヒマワリの種を数粒落として丸太を元の場所に戻しました。すると、次の日にはまるごときれいに無くなっています。面白くなって再びヒマワリの種を置いてみると、次の日にはまたきれいになくなっていました。3月30日、じっさいにガラス板を置いてみます。丸太の下に差し込むように置くと、数日後、丸太の下から続く溝がガラス板の下へと進んでいました。曲がりくねったり、Y字に分かれたり。ガラス板の下にあらかじめ置いたヒマワリの種に誘われるように、その溝は日ごとに伸びていきます。ビデオカメラを設置して撮影してみると、しっかりとヒミズの姿が映されていました。長く伸びた鼻をひくひくさせながら、少しずつ、しかし進むときはすばやく、前へ進んでいきます。ヒマワリの種をくわえると、急いで丸太の下へ。ガラス板の上の落ち葉が風で転がったときも、その瞬間に急いで丸太の下へ戻っていきました。ガラスの下を進むことはヒミズにとって冒険であり、丸太の下は安心できる特別な場所のように見えました。黒い毛で覆われた真っ黒な顔に、細長い鼻。毛がまばらに生えた長いシッポ。なぜこのような姿をしているのだろう、と不思議に思います。もっと近くでその姿を見るために少し工夫をしてみます。直径3㎝のアクリルパイプをガラス板の下に斜めに差し込みます。片方に直径7㎝ほどのフタ付きの丸いケースをとりつけて、そのなかにヒマワリの種を置きました。パイプを通って、地上に置かれたケースのなかの種を食べるヒミズの姿を、横から近距離で見ることができるようにしました。からだを左右に小刻みに動かしながら、ヒミズはパイプのなかを勢いよくのぼってきます。パイプから顔だけのぞかせて、近くにあるヒマワリの種を鼻でさわり探り当て、口にくわえると、また勢いよくバックして戻っていきます。何度かそのような動きを見せたあと、ケースのなかに身を置き、からだを丸めて種を食べるようになりました。細長い鼻は彼らにとって周囲の世界を探る大切な道具のほかに、近くの獲物をたぐりよせる役割があるようです。長い爪を持つ手はモノをつかむのが苦手なようですが、ゾウの鼻と同じような役割を果たすその鼻がヒマワリの種を食べるのに大切な役割を果たしていると感じました。それでは、身体全体を覆う真っ黒でつややかな毛や、いっぽうで毛がまばらに生えたシッポは彼らの暮らしでどのように役立っているのでしょう。どんなに細かい特徴であっても、きっとそれぞれに隠された意味があるはず、と今では考えています。それはほかの生きものにも言えそうです。ヒミズとの出会いから、いっそう興味深く、細かく丁寧に、身近な生きものの姿を観察するようになりました。ヒミズを見る

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