FN70号
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31くの作品が置いてあった。さっそく近くでよく見てみる。年輪がきれいな模様のようになっているテーブルや大きさが違うお盆、臼うすやわなげ、特大けんだま……と実用品から遊び道具までさまざまな作品があった。臼などの大きいものは1週間かかるが、お盆などの小さいものだと1時間でつくりあげるという。 高部さんは、昔から家族のなかで自分だけものづくりが好きだったらしい。いつごろから本格的に始めたのかを伺うと、「定年退職したらつくり始めたいと思ってた」とのこと。じっさいは、退職する5年くらい前からものづくりを始めていて、もう今年で20年くらいになる。 高部さんは自己流でものづくりをする。雑誌や新聞の写真を見て「これをつくりたいな」と直感的に思ったものを切り抜き、高部さんお手製の帳面に貼る。それを見本にしてものをつくる。設計図は書かない。「適当に木を切って、それをじっと見る。そうすると、この大きさはこれができそう右:作業場にある、木を削る機械左:乾燥中の木材だな、っていうのが自然とわかるから、その感覚でつくっている」 木を見ただけで完成した形がパッと浮かび、感じたままにつくる。材料を材料としてとらえるだけでなく、一緒にものをつくっていく相棒として、対話をしながら形にしていくという感覚なのかなと思った。 家の裏にある作業場の小屋に案内してもらう。小屋の隣には山で切ってきたり、仲間うちでもらったりしたサクラやケヤキ、イチイといった木材が置いてあった。「切ってすぐに使うんじゃなくて、しばらく乾かしてから使うのがいい」と言う高部さん。だからこれらの木材は乾燥中だという。高部さんは「畑をやっているから、作業はほとんど冬にやってる。それに、夏場だと暑くてね」としみじみと言う。作業場の小屋は屋根が低く、窓も少ない。たしかに、暑い日に作業場にこもるのは大変そうだ。「つくる」を楽しむ 高部さんはつくったものを紹介してくださるたびに「いたずらばっかしてる」と言いながら楽しそうに子どものような笑顔を浮かべていた。つくれるものや興味があるものは、何でもすぐにつくる。「つくったものを自分で使うことはあまりなくて、できあがったものを眺めるのがいいんだよね」そう言っていた高部さんにとって「つくる」とは何かを伺うと、「生きがい」であり「一番楽しい時間」だと言う。つくる行為そのものを心から楽しんでいる姿がすてきだなあと思いながら何度も頷く。 初めて高部さんがつくったも・・のを見たとき、不思議とわくわくするような、ずっと見ていたいという気持ちになった。お話を伺ってから考えてみると、それは、高部さんが楽しんでつくっていた想いが、も・・のからも感じられたからだと思った。私も、たとえば『フィールド・ノート』を数十年後に読み返してみて、自分が書いた記事から、取材のときや記事をつくっているときに感じた想いや経験したことを再び味わえたらいいなと思う。 も・・のが、つくった人を語る。私も、も・・のとそんな関係を築いていけたら、「つくる」ことがもっと好きになれそうだ。  前澤志依(国文学科2年)=文・写真使用済みの荷物用テープ(青色と黄色)で編んだカゴ

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