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毎年越冬にやってくるテントウムシ。自然科学棟2階にて撮影(2011年10月28日)。かつては自然科学棟だけで10万2038匹ものテントウムシが集まっていたという記録がある(『ナチュラリスト入門 秋』、岩波ブックレットNO.152)テントウムシ、レディ・バグ。なんとかわいらしい響きでしょうか。古くからこの虫が、幸運や幸福の象徴とされ、人々に愛されてきたのは、鮮やかで愛らしい前羽の模様、せわしく動く6本の脚、光のほうへ飛び立っていく力強さだけでなく、生涯にわたって万にわたるアブラムシを捕食し、地域の農林業や景観維持に大きな役割を果たすことが人々に知られていたからでしょう。 11月12日土曜日、忘れ物をして学内に立ち入った私は視界の濁りと化学薬品の刺激臭を感じ、心がざわめきました。構内の壁面・天井にいたテントウムシに起こったことが想像できたからです。明くる月曜日の14日、2号館ではおびただしい数のテントウムシが死亡、または運動能力を奪われていました。下の表はその数の一部です。 益虫と害虫の境界線を人間が引くことには批判もあります。しかし、野菜を食べない人、木を使わない人、みどりに安らぎを覚えない人は居ません。その基盤は生物多様性にあるのです。 「3・11」が私たちに提起したのは、一瞬にして多くの命が奪われた悲しみ、命はすべて皆尊いとこれまで思い込んでいながら、関東に住む私たちと福島の人々のあいだ、あるいは去りゆく命と育ちゆく命のあいだに厳然たる差別が存在するという事実でした。身近にある小さい命に私たちは共感し、共存することができるのか、その想いで寄稿しました。(泉桂子 社会学科環境・コミュニティ創造専攻教員)とる17

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