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雨の日の書道教室 10月21日、天気の悪さも相まって午後5時にはもう辺りは暗くなっていた。富士急行線 禾かせい生駅から赤坂駅へ向かって15分ほど歩く。ご自宅の正面に建てられた小さな建物が、藤本さんの書道教室だ。雨に混じって墨の匂いが微かに漂ってくる。入り口の引き戸を開けると、途端に外の寒さを忘れさせるようなにぎやかさが私を包む。活気の中心にいるのは藤本さんだ。ぱっと明るい笑顔、黒の洋服の上に羽織った縞と水玉の柄のシャツ、はきはきとした口調。その姿は、若々しいエネルギーに溢れている。 「お願いします」。ある生徒が藤本さんの机にやってきて、自分の書き上げた書を差し出す。藤本さんはそれに朱墨で添削していく。軽やかな手つきは、まるで風が吹いているかのよう。「ここは大きく右上にぐうっと引っ張っていかないと」。藤本さんの指摘は簡潔だ。一度に多くは求めないし、長々と説明もしない。生徒は納得したような、まだわからないような複雑な顔で書と向き合いながら席へと戻っていった。そのうち書き直した書を手に、もう一度生徒がやってくる。書を受け取る藤本さんの表情が真剣なものになる。緊張の一瞬。「うん、よく書けてる」。満面の笑みで大きく二重丸を描く。生徒はほっとしたように、ありがとうございます、と言った。 この教室は、毎週金曜日の午後4時半から7時半まで開かれている。そのあいだに学校の授業を終えた小学生や中学生がやってきて、1時間ほど練習をして帰っていく。1時間という目安は、子どもの集中力を考慮して決めたものだ。「学校の授業も45分くらいでしょう。それ以上やらせても『もういいや、飽きた』って字にでてくるよね」 藤本さんが書道教室を始めたのは20年ほど前。主婦として家庭を支え、夫の仕事の手伝いをするかたわら、この場所で子どもたちの成長を見守ってきた。「いろいろな子がいるよね。集中できる子、飽きっぽい子、1回注意して直る子、すぐには直らない子……。でも、みんな素直だよ」 現在は昔に比べると勉強に力を入れている家庭が増えた、と語る。字が上手くなってほしい、落ち着きを持たせたいという思いを込めて書道を習わせる親は多い。けれど、学年が上がり忙しくなるうちに、数ある習い事のなかで真っ先にやめてしまうのは書道らしい。それでも藤本さんは、書道こそ頭を使うものだと信じている。字をどのように並べるか、墨の黒と紙の白の配分はどのくらいか、考えながら筆を動かしていく。決して、時間のあるときのたしなみで終えられるものではない。「身につけたものは落ちないし、何よりものができるってかっこいいじゃない」。藤本さんは時代の流れに対し寂しそうに笑ういっぽうで、確固たる信念を持っているようだ。生徒の書を添削する藤本さん27
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