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どんなときにやりがいを感じますか、と尋ねると、「お客さんが美味しかったと言ってくれたとき」と返ってきて、はじめてこのお店を訪れた日のことを思い出した。お店に入ろうとすると、自動ドアは開かず、店内も暗い。定休日なのだろうか、としばらくお店の入り口の前に立っていると、「ごめんねぇ。今日はもう閉めちゃったの」と声がする。振り返ると、バンダナにエプロン姿の美津子さんの姿があり、「ついさっき閉めちゃったの。あ、まだあるかもしれない」と続けてお店のなかに駆けていき、すぐにおむすびを手に戻ってきて手渡してくれた。ふいの出来事に、その日は帰宅してからもずっとほくほくした気持ちだった。遠方に出向き、熱心に選んだ食材や、修業して得た技法を生かした商品を、お客さんが認めてくれる。そのことももろんだけれど、お客さんに喜んでほしい、という思いが根底にあるからこそ、そんなまっすぐな答えが返ってきたのではないかと、お話をうかがいながら考えた。「安全性や信頼は大事だし、おいしいものを食べてもらいたいから」。素材選びにこだわるわけを、にこにこと語る鉄治さん。食を提供する人間としての真摯な姿勢が伝わってくることばだ。しかし、ほがらかな表情からは、それが鉄治さんにとって当然のことであると伺われて、とても印象に残った。選りすぐりの食材で作ったおむすびが食べられる、家庭的な雰囲気のお店。今まで知らなかった「おむすびやのおおみや」を自分なりに表現すると、そんな風になる。この心惹かれるイメージは、藤野さん夫妻のたくさんの試行錯誤や、お客さんへの温かい思いのもとに成り立つものである。これから飲食店に足を運んだときには、出てきた料理がどんな思いで作られていて、それがどのように料理にあらわれているか、頭と心で味わいながら食べてみたい。そうすることで、食べもののおいしさはもっと深まるはずだ。コロッケなどの惣菜おむすび1つに1.5膳分ほどのご飯が使われているのばかりだ。お客さんは地元の人がほとんどで、常連も多いそう。朝食を買っていく会社勤めの人、学生、子ども連れの主婦など、年代を問わず、午前6時の開店から閉店の午後2時ごろまでのあいだ、さまざまな層の人々が訪れる。お話を伺うなかで、美津子さんは「家庭の、ふつうのお家でお母さんが作るようなものが多いなぁ」と仰っていた。ほっと落ち着く、飽きのこない母親の味。老若男女を問わず訪れるのには、そこにわけがあるように感じた。 「若いころは煮物なんか味付けが全然だめだったけれど、今は長年の経験からくる勘を生かして、おいしいと言ってもらえるようになった。誰だってそうなんだけどね」。どこかの家のお母さんの口から出てきそうなことばに、美津子さんが商売として料理していることを忘れてしまいそうになった。お客さんを思う持ち帰るお客さんが多いが、食べていく人のための席もある店名・おむすびの「おおみや」の由来は、鉄治さんのご先祖が近おうみ江(現在の滋賀県)出身であったことからおむすびの具。「ままけは」という味噌など、珍しいものが多い平井のぞ実(英文学科3年)=文・写真35

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