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じつは三頭? 部屋の窓を開けて網戸にしておくと、屋根裏に限らず、近くに暮らすムササビの鳴き声が聞こえることがあります。11月12日の夜9時過ぎのこと、玄関先で鳴いているのかと思うくらい、ずいぶん大きくはっきりとした鳴き声が聞こえました。あまり聞くことのない「キュルル、キュルル……」という鳴き声です。キーをまわして車のエンジンをかけ始めているときのような音に似ています。 ライトを持ち、そっとドアをあけ、ようすを伺ってみると5mほど先の地面にムササビが一頭いました。ちょうど巣穴の真下あたりです。アパートとサクラの木をつなぐ役割を果たしている電線の上にさらに二頭。鳴き声の主はこの二頭のようで、体の向きから判断すると、地面にいるひとまわり大きなもう一頭のムササビに呼びかけているように見えました。 その三頭は電線の上で合流した後、電線からサクラの木に移り、奥の林へと枝づたいに移動していきました。ただ、小さな一頭がどうしても電線からサクラの木へと飛び移ることができないようで(ほかの二頭が渡った先でしばらく待っていました)、20分ほど悩んだすえに、電線をつたって屋根裏の巣穴へと戻ってしまいました。この姿から、今回の三頭は屋根裏に暮らすムササビであるように思えました。観察を続けていくと、11月14日に、確かに屋根裏から顔をだす三頭のムササビの姿を確認することができました。巣穴から同時に三つの顔が見えますので、ムササビそれぞれの違いを学ぶのに良い機会となります。親ムササビはほか二頭の子ムササビより、顔もからだもやはり一回り大きく、必ず一番最初に出巣します。いっぽう二頭の子ムササビは耳に生えている毛の量が多いように見え、さらに耳先の毛が少し黒みを帯びているように見えます。電線を渡る姿は一歩ずつで、少したどたどしい印象です。これまではどこでどんなムササビに出会っても、一頭ずつだったので比べることができず、はっきりとした違いが分かりませんでした。いつも同じムササビを見ているような不思議な感じがしていたので、今では少しだけすっきりした気分です。 とはいえ、これまでの観察から得た経験を再び組み直す必要も出てきました。南東の木への滑空コースに限られていた親ムササビが、最近は南西へのコースもとることがあること、子ムササビ二頭は出巣のさいに、滑空することもあれば電線をつたってサクラの木に飛び移ることもあることなどが分かってきました。比較的早い夜9時過ぎに、親ムササビが一度、なぜか巣に戻り、そのあと再び一度出巣することもあります。また、日没後すぐに必ずしも三頭すべてが出巣するとは限らないようでした。子ムササビは、1時間ほど観察していても顔さえ出さないことがあります。 * * * ふと思うのは、こうした身近な生きものの行動を記録に残したり、行動の意味を考えたりしようとするのはなぜだろうということです。僕たちの何気ない暮らしのすきまに巧みに潜り込んで、たくましく生き続ける生きものを見守りたい、応援したいという思い。なかなか味わえない自分自身のユニークな経験として、記憶にことこまかに刻み込みたいという思い。この二つの思いが僕にとって、身近な生きものを見つめ続けるきっかけとなっていることに気づいたのです。彼らの行動の意味を決めつけずにあらゆる可能性に考えを及ばせて、ふりまわされながらも気ながに、屋根裏のムササビたちを見守っていこうと思います。屋根裏から顔を出す三頭壁に張りついて移動する39
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