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た風景は、私がいつも見ているものとは全然違う。高い位置から遠くまで見渡せるけれど、足元のようすはまったく分からない。この視界で道幅いっぱいの刃を操りながら動かすのだから、より慎重な運転が求められるだろう。詰所では昨日の晩から働き詰めだった人たちが、テレビを見たり仮眠をとったり思いおもいの形で休息をとっていた。仕事自体は一段落したようなのだが、大雪警報が解除されないと解散はできないらしい。午後5時半ころに大月の事務所から、警報が解除されたと連絡が入った。私たちはこの日の当番の人たちと入れ替わるように、河口湖を後にした。柴崎さんはこのアルバイトを始めて5年目。ここの職場では、もう10年以上続けている人もいるのだとか。大型自動車免許を取得している必要があるため、20代の人はほとんどいない。「もっと若い人が入ってきてくれればいいんだけどね」。***私の出身である静岡県では雪はめったに降らない。たとえ降っても積もらずにすぐに解けてしまう。だから、私にとっての雪は楽しいもの、素敵なものだった。雪が降ってくればおおっと歓声を上げたし、珍しく積もれば家族や友達と一緒になってはしゃいだ。都留に来て雪国の冬を経験して、初めて雪が楽しいばかりではないということを知ったのだ。厚く積もった雪は、道を塞いで人の生活を妨げ、時には命の危険もある。雪かきが仕事として成り立っているのも、それが人の生活のために必要だからだろう。機械の発達によって、雪かきを大規模におこなえるようになったとはいえ、雪とどう付き合っていくかは、昔も今も難しい問題だ。楽しいだけではないと知ったけれど、それでもやっぱり私は雪を見ると心躍らせずにはいられない。人の邪魔にならないように、ただよけるだけではなくて、もっと雪と共生していけるような方法を考えられないだろうか。自分が知らなかった仕事から、新しい思考の広がりが生まれてきた。右:「三つ折り」を運転する柴崎さん/左:雪かきをした後に路面が凍結するのを防ぐためにまく、塩の袋。1袋1000㎏の塩が入っている。倉庫は2階建てになっており、袋をクレーンで釣り上げ、除雪車に塩を積み込む11特集:冬仕事

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