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だけどね、やっぱり人間の付き合いっていうのはね、とことんね。今とことんしてないじゃないの。子どもの時から喧嘩もしないでしょ。やっぱりね、とことんして欲しいね。だからあたし学級のなかでね……。Nちゃんっていう男の子がね、お腹痛くなって保健室行ったの、それで休み時間にわたしが見に行ったの。そしたら一緒にいた子がね「先生Nちゃんね、洋服の下になんにもシャツ着てないよ」ってこう言ったの。「Nちゃん、なんでシャツ着てないの、こんな寒いのに」って言ったら、「お母さんがどっか行っちゃった」って言うの。着るものがわからなかったんでしょ。それでね、そこの家に放課後「ごめんください」って行ったらお父さんが出てね、それでお父さんに、「お母さんどうしたんですか」って言ったら、「どこ行ったかわからない」って言うの。だから怒ったよ、お父さんに。「お父さんね、今日Nちゃんがお腹が痛いって言ったけどね、下になんにも着てないんですよ。この子どもを育てるにはお母さんがどこ行った、じゃ育ちませんよ。見つけてください」って言ったの。とことん関わるその次の日は保存食持って行ったの。そしたらね、家のなかにいっぱい人がいるの。「なんですか 」って言ったら「ここのおじいちゃんが危篤だ」って言うの。そこの家で一番大きいお姉ちゃん呼んで「お母さんどこ」って言ったら「横須賀の妹のとこ行ってる」って。お母さんに電話して、「おじいちゃん危篤だってよ。あんた今日帰ってこなきゃね、あんた一生この家へ戻れないよ、帰ってきなよ」って。そしたら「わたしは家を出てから一人で食べてかなきゃなんないからヘルパーさんみたいな役をして金曜日までそこの家のお年寄りみなきゃなんないから帰れない」って言ったから、「あんた、じゃあ覚悟しなよ、もし亡くなったらあんた戻れないよ」って言ったの。それでお母さんは戻って来なかったの、たしか。だけどおじいちゃんは峠を越えて助かったの。次の日、学級だよりにNちゃんの家が今こういう状態だから着れる物があったらみんなくれないって。子どもたちがいっぱい、着る物など学校へ持って来たのよ。それをまた届「自分の目で見たり、考えたり、表現したりすることは、とても大切で、そこに生きているしょうこみたいなものだ」(̶̶『詩集たんぽぽ』より)「遠藤先生」が子どもたちに向ける眼差しはいつもあたたかい。都留市で長らく教員をしていた遠えんどう藤静しずえ江さん(79) のお話を数回にわたって紹介します。今回は遠藤先生が子どもと親と、とことん関わったお話です。 集の最後のページで「うれしかったこと」として本文中「喜びの輪が広がる」の出来事に触れている。本文中の絵は遠藤先生が詩集や学級通信に描いたものである。右上写真は詩友会(本誌38-39頁)のようす。左が遠藤先生。↑̶とことん関わる教育̶撮影・石川あすかFIELD.NOTE16

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