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そこだけ周囲の風景から浮き立つような店構え。都留市高尾町通り(都留市中央1丁目3-19)、「山本書店」【写真1、2】。とくに昭和時代の都留大生にとってはなつかしい名前だろう。山本書店は、昭和20年代中頃、戦地から復員した故山やまもと本國くにお雄さんが開いた書店である。首都圏への交通事情や物流が今のように整っておらず、ネット通販で本を購入するなど考えもしなかった時代、学生が研究に必要とする専門書は、急ぎならば自分で東京に買いに行き、あるいは時間がかかっても市内の書店経由で取り寄せてもらうしかなかった。そんな時代に山本書店は心強い味方だった。山本さんは週に数回、注文があれば一日おきに列車で東京神田の出版取次まで直接出向き、顧客から依頼された書籍を買い付けてきた。きょう注文すれば早いときには翌日の夕方にはほしい本を手にすることができた。この商習慣は長男の史ふみお雄さん(45歳)が家業を継いだ後も続けられ、どれだけ多くの都留大生が山本書店のお世話になり卒業論文を書いたことだろう。その山本書店は数年前に閉店し、昨年暮れにはご家族も都留を離れてしまったが、今もまちの人びとの記憶に残る「本屋さん」である。2011年12月、私は偶然市内で山本史雄さんに出会った。職業柄、山本さんには二代に渡りお付き合いをさせていただき何年かぶりの再会であったが、聞けば引越しをするという。そのとき私の頭には以前、都留大のT教授とフィールドワークならぬ市内散策をしたときのことが浮かんだ。̶̶夕闇の高尾町通り、私たちは山本書店の前に立って昭和レトロのなつかしい雰囲気を残す店構えを鑑賞していたが、教授は突然、すでに商売を畳んで戸締めをしていたドアをこじ開けるように「侵入」。私は慌ててすでに使われていない帳場の奥にいらした山本さんに言い訳をし、中を見学させていただいた。時が止まったような店内【写真3〜6】に教授は興味津々、「おもしろい、おもしろい。今時こういう本屋は貴重だよ、貴重だ!」を連発、分けても店内に残っていた『岩波文庫』の看板【写真5】が気に入ったようで、私が制しなければいただいて持ち帰り研究室に飾っていただろう。(教授にはまちなかで集めた飲み物の空瓶を研究室に飾る癖がある。)̶̶̶この高尾町谷の町・史の里都留市高尾町通り 山本書店 ①~都留大生の学びを支える~山本書店(写真1)2011年暮れ、都留文科大学フィールド・ミュージアムの〝まちの記憶コレクション〞にあらたな記憶が加わりました。FIELD.NOTE22

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