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メキメキと倒れるアカマツやスギ。大野地区の細野山に鳴り響くチェーンソーの音。その音に混じり、約30mの木がドシーッンと倒れる重量感ある地響き。お、倒れる!と、木が斜めに傾いたところを目撃した次の瞬間には、木は地面に横たわっている。この繰り返しで、細野山では一日に100本ちかくの木が伐きられている。2月21日、小林さんに案内していただき、細野山での作業のようすを見て回った。山に入るには作業道を使う。細野山には多くの作業道が走っており、最終的には軽トラックでも通れるよう仕上げるようだ。立木を伐る、という状況を目の当たりにするのは今回が初めてであったため、山のなかに入ってから聞こえるチェーンソーの音に高揚していた。その現場を訪れたとき、ちょうどアカマツが倒れるところだった。松くい虫の食害を受けたアカマツを、倒木の危険がないように伐っておく。吉よしだ田皐たかしさん(67)は、林業このみち30年のベテランだ。3年前に南都留森林組合に入り、これまで培った経験や技術を若手の職員に伝えている。「危ないからちょっと離れて見ていてください」ということで、吉田さんが木を伐る地点から5mほど離れて、一本の木を伐るようすをうかがった。まず、吉田さんは足もとにある枝木を伐りだした。なにをしているのだろう、と木を伐るまでの動きを見守っていると、小林さんから「逃げ道」を確保しているのだと教えてもらった。林業は危険と隣り合わせの仕事なのだ。自分よりもぐんと高い木を伐り倒すさい、倒れてくる木が自分に当たれば命の保障はない。そのため、逃げ道をつくることを優先する。チェーンソーの刃を木の根元に向けて伐りはじめてから2〜3分、木が傾くと同時に、吉田さんも木からサッと身を引き、倒れるのを見守った。このあいだも、近くにいるほかの職員の方々が木を伐り続けていた。あちこちでメキメキと独特の音を発して倒れていく木に目がいった。高い木があっというまに倒れていく。静寂な森のなかで一瞬一瞬の作業が積み重なっていく。どれも初めて目にして、耳にする光景だ。これまでは、本学の講義やフィールドワークを通して、林業について「なんとなく」は知っているつもりでいた。だから、じっさいの現場を見ると、その迫力に圧倒されてしまった。どのように木を伐り、仕事をこなしているのか。現場で働くかたの考えや姿勢を知ることも大切なことなのだ。◇「一日があっというまに終わる」と吉田さんは言う。職員は、朝早くに出勤し、その日の作業現場や仕事内容を確認し合い、山に向かう。山に入ると、それぞれの持ち場に分かれて、日暮れまで作業にあたるのだ。現場を熟知し、基礎が培われていると、手ぎわよく次々に木を伐ることができる。林業の経験がない職員も、吉田さんのような熟練者から技術を受け継ぎながら、少しずつ腕を磨いている。林業に大切なのは、「技を盗むこと、それに根性もいる」。「俺もこの世界に入ったころは、チェーンソーをもたせてもらえなかった」と言う吉田さんも、先輩の姿を見て技を盗んできた一人だ。100haと口には簡単に出せるが、いざ山に立ち入ると、ほんとうに広い。職員は日々、間伐後の木の根を掘り起こし、作業道を整備25

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