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畳がなぜこんな形をしているのか。その答えは、じつは自分のなかに何となく持ち合わせていた。前号の取材のとき、関連する話を聞いていたこともあって、すぐにそれが掘り炬ごたつ燵にあわせた大きさであると勘が働いたのだった。藤森さんにことの真相を尋ねてみると、やはり掘り炬燵の跡ではないか、という。しかし、じっさいに畳をあげて確認したことはないらしく、「この下はどうなっているんですか?」という質問に対し、「どうだろう、開けてみたことはないけど」とのこと。かくして昔の生活の一端を閉じ込めた「ふた」は、このとき、ふとしたきっかけで開けられることになった。昔のままの姿でいよいよ畳が持ち上げられた。けれど、期待に反して見えてきたのは、古びたベニヤ板だった。なんだ、やはり改修されていたのかと落胆したのも束の間、「この板、取れそうだよ」と藤森さんが板に手をかける。私も手を伸ばしてお手伝いし、板を少しばかり横にスライドさせてから畳と同様に起こしてみる。すると次の瞬間、目に飛び込んできたのは、底に真っ白な灰を敷き詰めた小さな空間だった。「おぉ」。驚きから自然と声が漏れ出たような覚えがある。とりわけなにか素晴らしく、美しいものに遭遇したわけではない。灰のなかには長年のごみも混じっていて、汚いといってもよいほどだ。けれど、話に聞いていたものがいま確かに自分の目の前にあると思うと、喜びにも似た感情が湧いてきて、じっと目を凝らさずにはいられなかった。「そういえば、押入れのなかに掘り炬燵のやつがある」。藤森さんが押入れのなかを覗かせてくださった。手前の収納品の奥に、なにやら木製の台みたいなものが置かれている。「次来たときに出せるようにしておくから」と約束していただき、昨年はここで資料館をあとにした。昨年の12月下旬、都留市商家資料館(旧仁科家住宅)を訪れ、館長の藤ふじもりとしみつ森利光さん(64)にお会いした。ストーブを囲んで前号の報告もかねがね談笑していたとき、ふと足元の畳の形が気になった。室内の畳のうち、一箇所だけが小さな正方形だったのだ。どうしてここだけ異なる畳がはめ込まれているのだろう。ベニヤ板を起こす藤森利光さん。コンクリート製の炉に、灰が厚く敷かれていた*灰までの深さ:約17㎝半畳よりも小さい畳。踏んでも落ちないよう頑丈に作られており、かなり重量があった*一辺の長さ:69㎝(写真撮影日:2012.01.21)暖を取る〜小さな掘り炬燵〜続FIELD.NOTE32

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