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特集:冬仕事自分の食べるものを自分でつくってきた経験と自信があるからだろう。樽から取り出した白菜を良く洗って切る。少しばかりドキドキしながら口に入れた。味は少々薄いと感じたものの食べられないことはない。残りの白菜は一度樽を洗ったあと、塩を入れて漬け直してみよう。みえてきたこと寒い冬にする仕事は、よし、やるぞ、と意気込んでやらなければ進まないと考えていた。じっさいに意気込んで白菜を漬けたが、やってみるとその意気込みを持て余してしまうほどシンプルな作業で、仕事と言うよりも作業という表現のほうがしっくりする。複雑で難しいことこそ、いいものができると思い込んでいたようだ。手早く作業を終えて気長に待つ。寒くて動きたくなくなる冬にぴったりの作業だ。待つあいだには白菜の変化を見ることが楽しみになった。できあがった漬けものをおいしいと言ってもらうととても嬉しかった。母にも漬けかたを聞き、作業の工程は同じでも各家庭で干す時間、塩の分量、待つ時間、味が違うということに気がついた。シンプルな作業だからこそ、作業の工程は各家庭に根づき、好みに合わせて独自の工夫を重ね、続けられてきたのだろう。畑に白菜がたくさんできたから。毎年漬けているから今年も。そういった簡単な理由ですぐに漬けることができる漬けものは、続けようとして続けるものではない気がする。振り返ってみると、漬けものが好きで、小さいころからよく食べていたのに、漬けかたも白菜の変化も知らなかった。そういったものが身の周りにはたくさんある。料理や花の育てかたもそうだ。完成されたものだけを見ていても、そこからみえるものはわずかだ。じっさいにやってみることで、完成に至るまでの変化や過程を知り、新たな発見や感覚が私自身の糧となっていく。白菜を漬けてみるという体験は、漬けものをより身近なものにした。知っているつもりになっている言葉を辞書で調べ、新たな意味や本当の意味を知ったときにその言葉がぐっと自分に近づくような感覚と同じだ。体験の積み重ねによって、さとゑさんのような勘が身についていくのだろう。だから私は、一つひとつの体験を大切にし、体験からみえてくるものと向き合っていきたい。白菜を干す。干すことで味がしみ込みやすくなるそうだ白菜を樽のなかへ。今回は10ℓ用の樽を使用した塩を振り入れる。分量は家庭によって違う。今回は手で6つかみ入れた白菜の上に漬けもの石を置く。使用した石は6㎏樽の1/3くらいの水が出てきた表面に膜がはってしまった。手を入れるのは勇気がいる2356147

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