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さとゑさんが漬けている白菜を見せてもらう。漬けもの石をどかすさとゑさんの背後から樽のなかをのぞくと、白菜と水が入っていた。さとゑさんが11月に漬けた白菜をいただく。さっぱりとしていておいしい。しょっぱくもなく薄すぎてもいない、ちょうどいい塩味だった。12月に漬けたものはまだ塩辛くて食べられないという。実家で食べている漬けものとは少し味が違うような気がする。一週間ほど漬ければ食べられると思っていたが、どうもそうではないらしい。このさっぱりとした塩味になるまでには一ヶ月ほどかかるそうだ。味付けは塩のみ。漬けるときには塩と水を入れるのかと聞いてみると水なんか入れないよ、と言う。1月29日|白菜を漬ける晴天。さとゑさんに聞いた話を思い出しながら白菜を漬けてみることにした。12時ごろ、半分に切った白菜の芯に切り込みを入れて、新聞紙の上に並べて干す。15時ごろに干した白菜を回収した。小さめのプラスチック製の樽と塩を用意する。押し込むように白菜を樽のなかへ入れて、塩を手で三つかみまんべんなく振り入れる。さらにその上に白菜を重ねて、もう一度三つかみほどの塩を振り入れた。塩の分量がどうもよくわからないが、漬けもの石を乗せて作業を完了した。意外にも作業は30分もかからずに終わった。もっと手間のかかる仕事だと思っていたので拍子抜けしてしまい、これでいいのだろうかと不安になってくる。白菜が漬かるほど水がでてくるのか、味はしっかりつくのか、半信半疑だがようすを見ることにする。2月2日、樽のふたを開けて、漬けもの石をどけてみた。のぞいてみると、白菜が水に浸っている。たいした手間をかけたわけでもないのに白菜が水に浸っているという事実が嬉しかった。もう少し日がたてば、さらに水がでてくるだろう。塩を入れることで、白菜からでた水に漬かるから、漬けものなのだろうか。白菜が水に漬かったら、上下の白菜を入れかえて味をみながら塩を振り入れる漬けかえ作業をしよう。上下を入れかえることで味が均等につくという。塩の量が少ないとすっぱくなってしまうということなのでそれは避けたい。2月6日|白い膜がはるそろそろ漬けかえようと再びふたを開けた。なかを見て失敗の可能性が頭をよぎった。白菜が漬かっている水の表面には白い膜がはっていて、白い泡も浮いている。漬けもの独特の鼻をつくような臭いが強くなっている。思い返してみればここ何日か部屋の暖房をつけっぱなしだった。原因はそれかもしれない。白菜の漬けものを冬に漬けるのは白菜が冬に採れるというだけでなく、気温が低くないと何日も置いているあいだに痛むからなのだろうか。失敗してしまったのだとうなだれながら、どうしようもなく廊下からベランダへ白菜を移した。2月15日、さとゑさんに膜のはった漬けものの写真を見てもらった。編集室で失敗ではないかもしれないという話になったからだ。さとゑさんには食べてみればいいと言われ、戸惑った。あの白い膜のなかに手を入れるのでさえ勇気がいるのに、食べてみて大丈夫なのだろうか。一瞬そんな考えが頭のなかに浮かんだが、さとゑさんが平気な顔をして言うので家に帰って食べてみることにした。普段から見た目が良いものばかり口にしていると、こういうときどうしていいかわからない。さとゑさんが平気な顔で、食べてみればいいと言えるのは、藤森美紀(社会学科3年)=文・写真こたつほんの少し、出てから漬けものが好きだ。自分で漬けて食べてみたい。しかしどのようにして漬ければいいのかわからなかった。そこで、毎年白菜を漬けているという渡邊さとゑさん(80)のお宅へ伺って話を聞き、じっさいに白菜の漬けものを漬けてみることにした。FIELD.NOTE6

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