FN73号
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上:ゼーゲルの原型。下から9・8・7と番号がふられている    (2012.04.14)下:ゼーゲルが溶けたあと。左から9・8・7番のもので曲がっている角度から溶けぐあいをみる    (2012.05.13)灰を混ぜた釉薬の溶けぐあいを実験したもの。温度や釉薬の厚さなどで溶けかたも変化する  (2012.05.13)ってくるから、考え出すとなかなか難しい。私が混乱していたようすをみて、遠木さんは「ま、やってみないとわからないから」と苦笑いしながらつけたす。化学変化を考えても、じっさいに色の出かたは実験しないとわからないので、ある程度考えて調合したら、あとは焼きあがってからのお楽しみだという。 釉薬をつけたあとはいよいよ「本焼き」にはいる。だいたい1時間に100度ずつ上げていき、800度まで上げたら少しペースを緩める。それから、窯のうしろにある空気孔(ドラフト)をつかって窯のなかの空気の量を調整する。そうすることで煙突から空気が排出される調子が変わってくる。空気孔を開けて煙突からの排出が悪くなると還元し、閉じて排出をよくすると酸化する。このことを「窯の雰囲気をつくる」というらしい。還元と酸化によって釉薬に酸素が付着する量が変わり、色も変化する。たとえば銅を含んだ釉薬をつけて還元させると赤くなり、酸化させると緑になる。 遠木さんが作品を焼くときは、1250度まで窯の温度を上げる。窯のなかの温度を知るために登場するのが、温度計のほかにもう一つ、釉薬とおなじ物質でつくられたゼーゲルというもの。それには数字がふられていて、数字が小さいほうが低い温度で溶ける。「だいたい8番をつかうかな」というのは遠木さんのこだわり。8番は1250度のあたりで溶ける。遠木さんにとってはちょうどいい温度らしい。「あんまり温度をあげすぎると、釉薬が溶けすぎてテカテカになって安っぽいからおれは好きじゃないんだよね」 腕を組んで、置かれている作品を一つひとつ見ながらおっしゃる遠木さん。窯の温度がもっとも重要になってくるのだろう。焼きあがるのにはだいたい16〜22時間かかる。窯をつかい始めたころは頻繁に温度計を見て温度の上がりぐあいを調べていたそうだが、最近は感覚でみているそう。窯の雰囲気をつくるために何時ごろに800度になるかを逆算して、焚き始めの時間を決めているらしい。焼くために丸一日費やして、ようやく一つの陶芸作品が完成する。 だが、窯に入れるときに欠けたり、焼いているあいだにひびがはいったりして失敗することは日常茶飯事だとか。「焼く前に気に入った形がつくれても、焼いている最中に割れたり、色のつきかたが気に入らなかったりすることがあるんだよね。逆に、失敗かなあと思ったのが……よくできてたりするんだよ」 せっかく気に入った形ができたのに、失敗したらショックが大きいのではないかと思ったが、遠木さんからは失敗しても、次こそは成功させるという熱意が伝わってきた。釉薬の調合で色味がどうなるかは焼いてみないとわからないように、完成しないとわからないし、完成してから新しい発見があるかもしれない。遠木さんは、つくればつくるほど今度はこれに挑戦してみようと思うのだとか。「成功させようと思ってもなかなか成功しないからね。だからそういうのが陶芸のおもしろさなんだと思うよ」。遠木さんの挑戦はこれからも続いていく。FIELD.NOTE14

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