FN73号
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大学に入ってからこれまで、わたしは都留市法能宮みやばら原地区で田んぼと畑を耕してきた。手が足りず、田んぼは今年断念する。耕さなかった田んぼはもう、一面草に覆われていた(5月1日のこと)。  畑のまわりはこのあたりに暮らす人たちの耕す田畑が広がっている。だから畑にでているといつも、通りがかった人に声をかけてもらえる。余った種や収穫したものを分けてもらい、種を蒔まく時期や方法を教えてもらうこともあれば、もっと土寄せをしなきゃだめだとか、草が生えて畑がもったいないとか、あきれられたり叱られたりすることも多い。 わたしが畑へ行くのは、なんとか畑をまわさなければと思うからだ。まわりに迷惑をかけないように畑を維持していかなくては、という責任がある(あまり果たせていないが)。でもそれだけではなかったと、この春になってあらためて感じている。 冬のあいだ凍っていた土は、4月になるとふっくらとして、目に見えて畑が起きだすのが分かる。4月下旬にもなると、あるときを境にぐんと緑が濃くなり、それまでの畑の穏やかさに気づくことになる。春の始まりも劇的だけれど、初夏にかけてぐんぐん勢いを取り戻してゆくこの時期の畑は、本当に力に満ちている。 毎年春になると冬菜の収穫が始まる。秋に種を蒔き、小さな株のまま冬を越した冬菜は、暖かくなると凍てついていた葉をのびのび広げて、そのうちすいすいとやわらかい花芽を伸ばす。これをつぼみのうちに摘みとって食べるとおいしい。収穫は初夏まで、1ヶ月以上つづく。うまく摘んでいけば、夏まで収穫することができる。摘むのが追いつかなくなり本格的に花が咲くようになると、今度は種を採る。そしてすぐにまた、種を蒔く季節になる。 この冬はいつも以上に寒く、冬菜がちゃんと冬を越せるのか、春になったら前の年と同じように収穫することができるのか、心配で、なかばあきらめてもいた。だからこの5月1日、今年初めての冬菜が摘めたときは、本当にうれしかったし、安堵した。つくったことのないものを試してみるというのも畑のたのしみだけれど、同じことを同じように、毎年きちんと繰りかえしていけることが、気がつけば自分にとって重要なことになっている。   耕さなくなり、草に覆われていた田は、数日後うそのように、きれいに田植えがされていた。わたしたちができなくなっても、ほかの誰かがまわしていく。ホッとすると同時に、さびしさもあった。 畑も、この先続けられるかは分からない。けれどこの一年は、精一杯耕してみたい。右頁写真:①葱ねぎを植え替える(4月9日)/②この春一番に種を蒔いたちぢれ小松菜(5月10日)/③昨年採った種を蒔いたサニーレタス(5月13日)/④初めて試みるつるなしいんげん。5月5日に蒔いたものの芽がようやくでそろう(5月17日)/⑤花芽がでた冬菜(5月7日)。5月25日には花が咲き始めていた(⑥)/⑦じゃがいもの芽がでた(5月10日)。じゃがいもを植えるのは「桜の咲くころ」と教わった。今年は例年よりずいぶん遅く4月10日ごろになった* * *香西恵(社会学科4年)=文・写真①⑦⑥⑤④③②23

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