FN73号
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今度は角をひろいたい、と思ったのは、前回、鳥の巣を見つけようとして、見つけられたのがきっかけだ。もしかしたら角だって、見つけようとしてみれば見つかるかもしれない。そう思うと、角はひろってみたいものになった。鹿へ近づく  鹿の角は毎年生え変わる。それも春先が多いらしい。「角を見つけたい」ということを話すと、いろいろな人が鹿にまつわって自身の知っていることを教えてくれた。 鹿が沢へ降りてきて水を飲もうとしてかがんだときに、角がぽろりと落ちること。鹿の年齢によって角の形や大きさはさまざまで、なかでも「四よんせん尖」や「五ごせん尖」と呼ばれる、先が4つ5つに枝分かれしているものはとくに立派なのだということ。五尖の角を持つ黒い毛並みをしたエゾジカの格好良さ。あるいは道志の川にいけば鹿の首ごと見つかるかもしれないこと、角は加工すると臭いこと……。 大学の職員のかたや守衛さん。身近な人の口から鹿にまつわる話がでてくるたびに、角への執着を新たにするとともに、鹿の話題が広がることに驚いていた。わたしは「角をひろう」ということをとおして鹿に近づくことになったけれど、周りの人に話を聞いてみれば、ごく自然に鹿の話がでてくる。どんなささいなことでも鹿について語ることが、どの人にもあった。山へ通うこと 「角を見つける」という目的のもとに山を歩く。ほかのひろいものとは違って珍しいうえに、誰かが先に見つけたらひろわれてしまうだろうから、本当に見つけようとするならとにかく足繁く通うしかない。角が見つかったらもちろん嬉しいけれど、そのために通うことで、山が変わっていく様子を間近に見ることができ、知っているようで知らないものとの出会いをていねいに重ねることができたのが、大きな収穫だったかもしれない。 4月18日には蛸たこのような形をしたキノコが落ちているのを見つけた(帰って図鑑で確認ひろいもの4.鹿の角鹿の角をひろえたら、宝物だ。角を探してこの春山を歩いた。香西恵(社会学科4年)=文・写真FIELD.NOTE30

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