FN73号
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これ(ねんねこ)をつくる時代っていうのは、私の実家では、カイコを飼ったの。養蚕ね。で、これ(布)のキレのできかたを知っているわけ、私は。カイコを飼って、私たちは子どもだけどそれに参加してたわけ。たとえば桑をカイコにあげることとか。あとは「こくそ」って知ってる? カイコのフンのことなんだけど、それが溜まってくるとときどき取り替えなきゃいけなくて、そういうこととか。で、糸を吐き出すとカイコが透き通ってきて、するとそのカイコを全部拾って、そのカイコが「繭」をつくる機械ね、「回転ムズ」っていったけど、置いておくの。それでいく日かたつと、繭が硬くなってできあがるわけ。出荷するわけね。ところが、その出荷するときにカイコがなかで死んでたりしている場合には出荷できなかったの。例えばカイコがなかで死ぬとシミができる。それからカイコが2匹入っていたりするのがあったりとか、そういうのは規格はずれだからはじき出される。もったいないでしょ? そういうのはもったいないからうちで使うわけ。これを鉄鍋で煮るわけ、煮るとね、だんだん柔らかくなるの。それをね、畳を掃くほうきのようなものでかきまぜると、ほうきの先に糸が絡まってくるの。その5つくらいを一緒に絡めて糸車でころころころころと、糸になっていくわけ。すると最後に、サナギっていうんだけど、それがいっぱい浮くんだよ。で、その糸を今度は整経して、そのころは手織りで、ぱったんぱったんと織るわけ。それで白というかちょっと黄色いような色に織り上がる。だから、そういうふうに、手を掛けてこれができたってことを私自身が知っているわけ。で、私は今そういう着物をいく着か持っています。ちゃんと大事に。 織ったのは、私の母の母、おばとかで、私の成人式の着物くらいのものはみんなそういうふうにしてつくったものなの。だから、着物の布に対しての愛着っていうものは、買ったものと違うから、うんとあるわけね。自然に「もったいない」とか「無駄にできない」っていうものが、体に染みついているわけよ。 だってカイコ飼うのが嫌でねえ。こどものときね夏休みに遊んでるのにさ、カイコ飼ってるうちは子どもだって遊べないのよ。みんなが泳ぎに行くって言ったってなかなか泳ぎにも行けないくらい、子どもも労働力だから、数え切れないほどの趣味をもっていて、はつらつとした毎日を送っている遠えんどう藤静しずえ江さん(79)。その姿に私たちも元気をいただいています。本誌71号では和服リフォームを始めたきっかけのお話をうかがいました。今回は、さらにリフォームに焦点を当てて、遠藤さんの子どものころのお話、そこからリフォームをし続けるもうひとつのきっかけを紹介します。̶リフォームの根源̶写真:カイコの繭。遠藤さんのご自宅で保管されていたもの

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