FN73号
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家庭の。だからそういうなかで一枚の布ができたっていうことは、もうほんとね、もう、涙ぐましい努力の結果でできてる。だからそういうことも踏まえてね、リフォームの、ルーツがあるわけよ、根源が。桑の木を見つけると そしていま、いまね、私が一番目につくのは、そのカイコを育てるときの桑。桑の木ね、桑を食べさせたでしょ。いま、市内の至る所にその桑が死んでないで生きてるのよ。まったくいっぱい生きてるの。「えっ、あらここにも」それでまたここ切るでしょ。桑っていうのはね、初めは摘むの。それでカイコにあげる。それは初めの春。その次のは木をこう切るわけ、それでそのままあげるの。枝ごとね、そうするとまた枝が出てくるでしょ。そういう木だから、切ったって切ったって、根っこから掘らなけりゃいつまでも生きてるの。その桑がまったく……、目につくの。「あっ、ここにも、ここにも」っていうふうに、ね。もうほんとにそうなのよ。 だからね、このタネ(カイコの卵)はどこにあるのかねって言って。そう、これね、ほんとに2㎜くらいかな。ゴマよりちっちゃいつぶつぶのがね、このくらいの、「たねいた」って言うの。それにブワアーっと産んであるのね。それを養蚕室で、「さんしつ」って言うの、温度かけて、孵化させるわけ。ほんとね、このくらいの「けご」って言うの、小さい黒い毛虫がぐちょぐちょって出てくるのね。それをどんどんどんどん大きくしてくの。で、脱皮してくの、どんどんどんどんね。そして大きくなってカイコになってくんだよね。そういうのを知ってるでしょ? もう一回そういうのしてみたいなって、一部だけの、特権がやるものじゃないなって思うの。で、そういうのがあるから、よけいリフォームっていうのに執着するわけ。昭和7年11月23日生まれ。元小学校の教師。趣味は詩・和服リフォーム・油絵などさまざま。ニックネームは「シーチャン」。乾物屋の商品を猫があれこれと見るように、いろいろなことに興味をもつ姿から、母親が「乾物屋の猫」と名づけたこともあったそう。好きなことは「何もないところからつくりだす」こと。ご自身の性格については「元気でーす」とおっしゃる。遠藤静江さん(えんどう・しずえ)上中段イラスト:桑の葉と桑の実。7月には桑の実がなる下段イラスト:遠藤さんの似顔絵。イラストはすべて遠藤さんによるもの  繭を着る祖母は黒い鉄鍋で繭を煮ていた箒もろこしの穂先で鍋のなかをぐるぐると二回三回かきまわすと五、六個の繭の糸口がすがりつく俵型のかわいい繭玉はくるんくるんとでんぐりかえりながら細い光の糸が糸車へとおもしろいように手繰られていく鍋のなかで踊らせれていた繭玉からやがて一糸まとわぬ蛹が現れたはだかにされた命の異様な姿といじらしさに胸が詰まったやがて生糸は手機に乗せられたからからとんとん祖母の手と足の快いリズムに乗って丹念に織り上げられ三丈のみごとな内織りとなった ……(以下71号に掲載)……     ̶̶遠藤静江 作

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