FN74号
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10FIELD.NOTEキョッキョッキョキョキョ││谷あいのまちに鋭い声が一筋、響いては消えを繰り返す。深夜の静寂を力強く震わせるその音の主はホトトギス。古来、和歌の題材として愛されてきたこの鳥は、私に古典作品の面白さと奥深さを教えてくれた思い入れの深い鳥でもある。 大学一年生の夏、午前2時をまわって就寝しようとしていた私は、初めてホトトギスの鳴き声を耳にした。真夜中に外から聞こえてくる音と、「てっぺんかけたか」という有名な「聞きなし」(*1)がすぐには一致しなかった。けれど、しだいにホトトギスの声だと分かり始め、思わず飛び起きてベランダからその鳴き声に耳を傾けた。高校生のとき読んだ『古今和歌集』夏歌に数多く詠まれていたのは、この声だったんだ! 地元では聞くことができなかった本物の音に初めて触れ、驚きと嬉しさに心動かされたあの夜のことはいまでも忘れられない。 その年初めて聞かれる鳴き声は「初はつね音」と呼ばれる。三年目の今年、私がホトトギスの初音を耳にしたのは6月1日の午前1時40分。あとで振り返ることができるように簡単な記録をつけることを自分に課し、そのつど気づいたら書き留めるよう心がけた。しかし、翌朝のことがあるため夜更かしばかりもしていられず、鳴き声を聞きながら寝入ってしまうことが何度もあった。また、それとは反対に聞き続けた挙句夜を明かしてしまうこともあって、  夏の夜の ふすかとすれば ほととぎす  鳴くひと声に 明くるしののめ             (古今集・一五六)という歌を思い出した。作者の紀貫之は、そろそろ寝ようかというとき、ホトトギスの声を聞きつける。すると、あっという間に夜が明けて朝が来てしまった、という場面を詠んでいる。深夜から薄暗い明け方を経て、あたりが明るくなるまでの時間はほんとうに足早で、歌中に表現されている夏の短夜というものが分かったような気がした。 ところで、和歌にホトトギスの姿が詠われることは少ない。もっぱら鳴き声ばかりが尊ばれてきた。あの声の持ち主は、いったいどホトトギスの声が聞こえる〜身近に感じる古典の世界〜牛丸景太(国文学科3年)=文・写真都留で迎える三回目の夏。今年も初夏の訪れを感じさせる音が聞こえてきた。毎年変わらずキャンパス周辺に響き渡るこの音を、私は『古今和歌集』の世界に重ねながら聞き続けた。三度の夏を通じて見えてくるものとは何だろうか。FIELD.NOTE

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