FN74号
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1313立しようとする人が参考にするために写真を撮りに来ることもあるそうです。鐘をつく人の思い ムツさんと玄関でお話をしていると、家の奥からムツさんの夫で、用津院のご住職である中江秀ひでお雄さん(88)がいらっしゃいました。毎日どんな思いで鐘をついているのかうかがってみると、「人々がお釈迦様のところにいけるようにという願いだな」と、秀雄さん。その思いの源にあるのは、戦争を体験したことが強く影響しているそうです。「戦争はあってはならない」。お話を聞いている最さなか中も、秀雄さんはその言葉を口癖のように何度もおっしゃっていました。鐘の響き「あと少しだな」 胸ポケットから薄型のデジタル時計を取り出しつつ、秀雄さんが玄関に向かいました。自分の腕時計を確認してみると、時間は17時55分を示しています。あわてて秀雄さんのあとを追い、外に出ました。「6時になると都留市のチャイムが鳴るら。でもそれよりも俺のほうが正確だ。俺が鐘を叩いた後にチャイムが鳴る。聞いててみろ」 秀雄さんはそうおっしゃって撞しゅ木もくの縄を握り、ただ黙って真剣に時計を見つめはじめました。わたしも同じように黙って腕時計を見つめます。心の中で3、2、1とカウントダウンをした直後、秀雄さんがおもいきり撞木を引っ張り、豪快に鐘をつきました。空間をさくような音があたり一面に響きわたり、身体の底にまで音の重い余韻が残ります。そして一拍おいたあとに、秀雄さんがおっしゃったとおり都留市のチャイムが鳴りはじめました。秀雄さんはチャイムの音を聞きながら、続けて5回鐘をつきます。全部で6回鐘を鳴らすのは、仏教でいう「六りくどう道」の教えからだそうです。 鐘が思いを響かせる││用津院の鐘の音には、秀雄さんが人々の幸せを願う思いや、戦争があってはならないという思いが込められています。鐘の響きは、それらの思いをわたしたちに届けてくれるという意味を持っているのだと知ることができました。 今まで鐘の音というものは、ただ時間を知らせるために鳴らしているのだろうと思っていました。しかし取材をしてみると、そこには鐘をつく人自身の思いがあったのです。目に見えない、表現するのも難しい音に思いが込められていることは、わたしにとって大きな驚きでした。 しかし、これは今までわたしが気がつかなかっただけで、本当は、鐘の音だけではなく、楽器の音や人の声などのさまざまな音についても同じことがいえるのかもしれません。いつも聞こえてくる音にはどんな思いがかくれているのだろう。これから接していく音に対しても、そこに込められた思いを探しながら聞いていきたいです。用津院の入り口から。左にあるのが用津院の鐘堂。右が本堂中江ムツさん(左)と、中江秀雄さん(右)。用津院の歴史や鐘のことなどを詳しく教えてくださった秀雄さんのデジタル時計。手のひらに収まる大きさだ
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